2024-08-01

工藤莞司の注目裁判:出願商標「知財実務オンライン」は識別力がないとされた事例

(令和6年4月10日 知財高裁令和5年(行ケ)第10141号 「知財実務オンライン」事件)

事案の概要  
 原告らは、本願商標「知財実務オンライン」を標準文字で表してなる商標について、9類「定期的に発行される知的財産に関する電子出版物の閲覧のための電子計算機用プログラム等」を指定し登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2022-8817)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。 審決の理由は、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、3条2項の要件を具備しないとした。

判 旨 
 本願商標の構成中の「知財実務」の文字は「知的財産に関する実務」を意味する一般的な用語であり、また、「オンライン」の文字は「コンピューターの入出力装置などが、中央処理装置と直結している状態。また、通信回線などによって、人手を介さず情報を転送できる状態。」を意味する用語であり(大辞泉第2版)、英語の「online」とともに、「インターネットに接続した状態」、「インターネットを利用した」等を意味する用語として一般的に用いられていると認められる(証拠略等)。・・・ このような標章に接した需要者の一般的な認識としては、「オンライン」の前の一般的な名称に係る商品又は役務をオンライ ンで提供するものと認識し、「オンライン」の文字の前に示される識別標識に係る商品又は役務をオンラインで提供するものと認識するものと認めるのが相当であり、いずれにおいても、「〇〇オンライ ン」標章中の「オンライン」の文字が果たす意味合いは本質的に同じといってよい。 そうすると、「オンライン」の前に「知的財産に関する実務」を意味する一般的な用語である「知財実務」を結合させた本願商標は、上記の一般的な取引の実情からみて、「知的財産に関する実務の情報をオンラインで提供するもの」、すなわち商品の品質又は役務の質を表示したものと認識されるとともに、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであると認められる。
 本願商標は、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるということはできないから、本願商標が商標法3条2項に該当しないとした本件審決の判断に誤りはない。

コメント 
 本件事案については、知財高裁も、商品の品質又は役務の質を表示するものとして、3条1項3号該当と判断し、使用による識別力の取得も否定し、審決と同様である。原告らは、本願指定商品役務が「定期刊行物」と共通性を有し、本願商標は識別力を有する旨主張したが、「定期刊行物」は、その題号と関わりなく様々な内容からなる記事を編集して定期的に発行されるものであり、必ずしも題号が品質(内容)を表示するものではないが、本願指定商品役務は、いずれも知的財産に関するものであるから、本願商標が商品又は役務の内容すなわち質を表していることが明らかであり、「定期刊行物」と同様に判断することは適切ではない」とされた。最近、本願商標のような一般的な既成語の出願が目立つが、その意味合いが容易に理解され、その上独占不適とされる商標が多く、本願商標はその一つである。