2024-08-13

工藤莞司の注目裁判:書籍の題号は内容表示で不正競争防止法2条1項1号、2号による保護が否定された事例

(令和6年7月8日 東京地裁令和5年(ワ)第70654号 「牧野日本植物圖鑑」事件)

事案の概要 
 本件は、牧野富太郎の著作「牧野日本植物圖鑑」という図鑑を出版する原告が、原告の元従業員で、被告書籍「牧野日本植物圖鑑」(右掲参照)を出版する被告に対し、被告書籍に使用された「牧野日本植物圖鑑」 という表示(「本件題号」)は不正競争防止法(「不競法」)2条1項1号又は2号所定の「商品等表示」に該当し、本件題号を付した被告書籍の出版又は販売は、不正競争行為に当たると主張して、不競法3条1項に基づき本件題号の使用の差止めを求めるとともに、不競法4条に基づき損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

判 旨 
 不競法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」とは、商品又は営業を表示するものであるから、出所表示機能を有するものに限られるというべきである。そして、書籍には発行者等の表示が付されるのが通例であり、書籍の出所は、一般に上記発行者等の表示が示すものであるから、書籍の題号は、その書籍の内容を示すものにすぎず、出所表示機能を有するものとはいえない。そうすると、書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品等表示」に該当しないと解するのが相当である。本件題号は、出所表示機能を有するものとはいえず、特段の事情があるものと認めることはできない。したがって、本件題号は、不競法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当すると認めることはできない。

コメント 
 本件事案は、書籍の題号について不競法2条1項1号及び2号により争われた珍しい事案であるが、裁判所は、題号は書籍の内容表示で、出所表示機能を有しないから、同法上の商品等表示には該当しないとして、原告の請求を斥けたもので、正当な判断である。判決指摘の通り、書籍に係る出所を表示するのは発行社名や付されたその者の商標である。被告書籍にも、「三四郎書館」と表示されている。因みに、商標権侵害事件でも、書籍の題号は出所表示機能を果たさないもので、商標的使用ではないとして、侵害を否定する裁判例(「POS事件」昭和63年9月16日 東京地裁昭和62年(ワ)第9752号 無体裁集20巻3号444頁)が出され、定着している。