2024-08-27

工藤莞司の注目裁判:結合商標の類否判断等に誤りがあるとして審決の一部が取り消された事例

(令和6年7月8日 知財高裁令和5年(行ケ)第10087号 「三金工業」事件)

事案の概要
 本件は、登録無効審判請求効(2022-890029に係る不成立審決の取消訴訟で、争点は、被告が有する5類、10類、40類に係る商品・役務を指定した本件商標「三金工業」(登録第6074174号)が、商標法4条1項11号、15号、19号、7号に該当するか否かで、引用商標は、5類、10類に係る商品・役務を指定した登録商標 「Sankin/サンキン」(登録第3102237号、登録第4048984号)である。無効理由中、商標法4条1項19号、同項7号については、知財高裁でも斥けられた。                                                        

判 旨 
 原告は、米国の会社(デンツプライインターナショナル)とドイツの会社(シロナデンタルシステムズ)とが平成28年に合併して成立した会社で、歯科医療用製品の販売等を世界的規模で行っている。引用商標1、引用商標2の商標権者デンツプライシロナ株式会社(「デ社」という。)は、原告の子会社である。原告は、日本において、デ社を通じて、歯科用材料・歯科用医療機器の製造販売等を行っている。本件商標は、「工業」の部分が出所識別標識としての称呼、観念が生じないのに対し、「三金」の部分は、取引者、需要者のうち歯科医療関係者に対しては現に出所識別標識としての印象を強く与えているということができる。そうすると、当該部分は、その他の取引者、需要者からみても同様に出所識別標識としての称呼、観念が生じ得るものである。本件商標の「三金」と「工業」とは、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分的に結合していると認めることはできず、「三金」の部分を抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解するのが相当である。以上のとおり、本件商標の「三金」の部分と引用商標は、外観において相違するが、称呼は同一であり、観念も取引者・需要者のうち歯科医療関係者においてはデ社及びその商品の観念を生じさせる点で共通している。他方、「三金」それ自体は特定の意味を持たない造語にすぎないから、その他の取引者・需要者において、異なる観念を生じさせるものではない。これらを全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。そうすると、本件商標は、全体として、引用商標と類似すると認められる。以上によれば、本件商標は、その指定商品等のうち本件薬剤等商品及び 「義歯の加工(「医療材料の加工」を含む。)」の役務については、商標法4条1項11号に該当するから、この点に関する本件審決の判断は誤りである。・・・の事情を総合すると、本件商標は「三金」等の表示と類似しており、 「三金」等の表示は、歯科医療関係者の間において、デ社又はその製造販売する商品を表すものとして広く認識されている上、デ社又はそのグループ会社の業務に係る商品又は役務は本件金属加工等役務と密接に関連しているのであるから、本件商標を本件金属加工等役務に使用するときは、その取引者及び需要者である歯科医療関係者において、その役務がデ社又は同社と緊密な関係にある事業者の業務に係る役務であると誤信されるおそれがあるということができる。以上によれば、本件商標は、本件金属加工等役務に使用されたときは、商標法4条1項15号に該当する。                                                    

コメント
 本件事案は、本件商標と引用商標に関し類否及び混同の有無が争われて、知財高裁は引用商標の分離観察を認めて、両商標は類似と判断し、また引用商標は広く認識されているとして広義の混同の虞を認めたもので、全部不成立の審決が一部の指定商品・役務について取り消されたものである。この点、審決は引用商標の分離観察を否定した。構成文字やその一体性を重視したが、知財高裁は、引用商標の使用実績から丁寧に認定、判断している。取引の実情に合った、妥当な判断である。引用商標の「三金」と「工業」とでは識別力に差があることは明らかで、「三金」が支配的部分である(「セイコーアイ事件」平成5年9月10日 最高裁平成3年(行ツ)第103号民集47巻7号5009頁)。