2024-09-09

工藤莞司の注目裁判:出願商標「あらごしみかん」は識別力がないとされた事例

(令和6年5月28日 知財高裁令和6年(行ケ)第10004号 「あらごしみかん」事件)

事案の概要 
原告は、指定商品33類 「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、リキュール、カクテル、中国酒、薬味酒」とする本願商標「あらごしみかん」(標準文字)について登録出願をしたが、拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2023-1225)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて訴えを提起した事案である。拒絶理由は本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し、3条2項については不該当とした

判 旨 
上記によれば、本件審決時において、本願商標の指定商品等につき、「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料を使用した商品であること)」を表現するための語として、「あらごし」の文字や、「あらごし」の同義語である「粗濾し」「粗ごし」等の文字が広く使用されている実情があると認められる。 その中には、「粗くこしたみかん」を原材料とする商品を含め、原材料である果実(梅、りんご、ゆず及び桃など)をあらくこして、果実の繊維や果肉などを残した商品の事例も存在する。また、「日本酒」の「にごり酒」については、原材料である醪(もろみ)を「あらごしして」ないし「粗くこして」製造することからも、「あらごし」の語が、広く親しまれている。ジュース飲料を取り扱う分野において、「みかん」を原材料とする飲料に「あらごしみかん」が使用されている事例もある。「リキュール」等において、「みかん」を原材料とする商品が多数販売されている。                  
本願商標は、「あらごし」と、「みかん」とを組み合わせてなるところ、指定商品等の取引の実情によれば、本願商標をその指定商品に使用するときは、需要者、取引者において、「粗くこしたみかん」ほどの意味合いが認識されるものということができる。 そうすると、本願商標は、単にそれが「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品」、すなわち、商品の品質を表してなると理解、認識されるというべきである。以上によれば、「あらごしみかん」の語は、 商品の質を表示するものとして取引に際し必要適切な表示であり、本願商標の需要者、取引者によって当該商品に使用された場合には、商品の質を表示したものと一般に認識されるものというべきであるから、本願商標の指定商品について商品の質を普通に用いられる方法で表示する標章である。したがって、本願商標は商標法3条1項3号に該当する。認定した事実によれば、本願商標について、商標法3条2項 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」と認めるに足りない。                                   本願商標を、その指定商品中、「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品」以外の商品に使用するときは、当該商品があたかも「商品の原材料であるみかんが粗くこされた商品」であるかのように、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、本願商標は、商標法4条1項16号に該当する。

コメント 
本件事案では、本願商標が商品の品質を表示するもので商標法3条1項3号該当として、審決が支持されたものである。知財高裁は、提出証拠を踏まえた取引の実情として、品質、すなわち「商品の原材料が粗くこされたものであること(粗くこした原材料を使用した商品であること)」と各指定商品について丁寧に認定している。また独占不適とも指摘している。使用による識別力の取得も否定され、さらには品質誤認の虞もあるとされた。