2024-09-17

工藤莞司の注目裁判:出願商標「サプリ処方箋」は識別力なしとされた事例

(令和6年6月18日 知財高裁令和6年(行ケ)第10009号 「サプリ処方箋」事件

事案の概要 
 原告は、本願商標「サプリ処方箋」(標準文字)を9類「電子応用機械器具及びその部品等」、35類「商品の販売に関する情報の提供、消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供、消費者のための商品購入に関する助言と情報の提供、サプリメントの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、食餌療法用飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供等」、44類「医療に関する相談、医療に関する相談の媒介、医療に関する 情報の提供、医療に関するコンサルティング、インターネットによる医療に関する情報の提供、調剤、服薬指導、健康診断、健康管理、ダイエット・栄養摂取又は健康管理に関する情報の提供、栄養の指導、ダイエット・健康管理に関する助言・指導・ 診断」を指定して、登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2023-7240)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し審決の取消しを求めて訴訟を提起した事案である。                

判 旨 
 前記1の認定事実によれば、本願商標の構成である「サプリ処方箋」は、サプリメントの略である「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせた語である。そして、本願商標の需要者は、一般の消費者と認められるところ、 「サプリ処方箋」が「サプリ」の語と「処方箋」の語とを組み合わせたものであることは、取引者又は需要者が容易に認識できる事実ということができる。「処方箋」は「医師が患者に与えるべき薬物の種類・量・服用法などを記した書類」を意味する語である(略)。 しかし、一般的には、「処方箋」という語は、例えば「改革の処方箋」のように広く比喩的に使用される語であって(証拠略)、「医師が患者に与えるべき薬物 (医薬品)の種類・量・服用法等を記載した書類」に限定して使用されるものではなく、現に、認定事実によれば、複数のウェブサイトや新聞の記事において、医師又はそれ以外の者が、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を提示、提供することを「サプリメントを処方」、「サプリメントの処方」あるいは「サプリを処方」と記載した例があり、医師又はそれ以外の者がこのようなサプリメントの種類や量等の提示、提供に際して作成する書面を「サプリメント処方箋」あるいは「サプリメントの処方箋」と記載した例があると認められる。これらの事実によれば、本願商標の取引者又は需要者は、「サプリ処方箋」の語が本願商標の指定商品及び指定役務のうち35類役務群又は44類役務群に使用された場合には、患者、顧客等に適切なサプリメントの種類や量等を記載した書類を一般的に指す名称と認識するものといえ、原告が提供する役務を認識するとは認められない。したがって、本願商標は、少なくとも本願の指定商品及び指定役務のうち35類役務群及び44類役務群との関係において、自他識別力を有しておらず、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であると認められる。

コメント 
 本件事案については、知財高裁も、3条1項6号該当と判断し、審決と同様である。原告は、他に使用例ないとも主張したが、取引者、需要者の認識から識別力なしで押し切った。最近、本願商標のような一般的な既成語の出願が目立つが、その意味合いが容易に理解されて識別力なしとされ(令和6年7月8日 知財高裁令和6年(行ケ)第10011号 「デジタル医療モール」事件)(令和6年7月8日 知財高裁令和6年(行ケ)第10010号 「オンライン医療モール」事件)、その上時には、独占不適とされる商標も見受けられる。商標の採択に当たっては、登録性も見極める必要がある。