2024-10-29

工藤莞司の注目裁判:「シャンパン」を含む出願商標は商標法4条1項7号に該当するとされた事例

(令和6年9月11日 知財高裁令和6年(行ケ)第10030号 「遠隔シャンパン」事件)

事案の概要 
 原告(出願人・審判請求人)は、本願商標「遠隔シャンパン」(標準文字)について、指定商品を9類「シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するためのコンピュータ ソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの)、シャンパーニュ地方産の発泡性のワインを注文するための電子計算機用プログラム」(補正後)とし登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2022-17185)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。拒絶理由は商標法4条1項7号該当で、「シャンパン」を含む本願商標を指定商品に使用するときは、著名な「シャンパン」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせ、「シャンパン」の原産地統制名称の保護に努めているフランス国民の感情を害し、国際信義に反し公の秩序を害するおそれがあるとした。

判 旨 
 「シャンパン」の表示及び表示が示す発泡性ぶどう酒については、世界的に高い名声、信用、評判が形成され、フランス及び同国民の文化的所産というべきものとなっており、我が国においても、本願商標の指定商品の取引者、需要者のみならず、一般国民の間に広く知られ、多大な顧客吸引力が備わっている。                                 
本願商標は、「遠隔シャンパン」の文字を標準文字で表してなるところ、 「遠隔シャンパン」の語は、広く一般的に認識されているとは認めるに足りず、「遠くへだたっていること」等を意味する「遠隔」と「シャンパン」を組み合わせた造語であると認識される。そして、前記のとおり「シャンパン」の語が有する著名性と多大な顧客吸引力を考慮すると、本願商標からは、「エンカクシャンパン」の称呼とともに、「シャンパン」の称呼及び、前記の著名で多大な顧客吸引力を有する「シャンパン」の観念が生ずると認められる。以上を総合考慮すると、「シャンパン」の文字を含む本願商標をその指定商品に使用することについて我が国の商標法上の保護を与えるときは、著名な「シャンパン」の表示が備えた多大な顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせることを許容する結果となるおそれがあるのであって、国を挙げて「シャンパン」の表示の保護に努めているフランス国民の感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであるから、国際信義に反するといわざるを得ない。したがって、本願商標は、商標法4条1項7号に該当する。

コメント 
 本件事案では、知財高裁も、「シャンパン」を含む本願商標について、登録自体が国際信義に反し公序良俗違反として4条1項7号該当としたもので、分かりやすい事例である。原産地名称「シャンパン」の保護については、国際的にも確立されている。指定商品が発泡性ぶどう酒以外であるため7号該当とされたもので、指定商品が原産地産でない発泡性ぶどう酒なら4条1項16号や17号該当となろう。