2024-10-21

工藤莞司の注目裁判:図形商標について外観上非類似として原告の控訴が棄却された事例

(令和6年8月28日 知財高裁令和6年(ネ)第10027号 商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・令和6年1月20日 東京地裁令和4年(ワ)第70028号))

事案の概要
 本件は、原告商標権(18類等に係る国際登録第1002196号下左掲図参照)を有する原告が、被告標章(下右掲図参照)は原告商標に類似するところ、被告商品カバン類はいずれも原告商標の指定商品に該当するから、原告商標権の侵害(商標法37条1号)となると主張して、①被告商品の輸入等の差止め、②その広告宣伝物の廃棄を、③損害金5000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた請求を原審が、原告商標と被告標章が類似するとは認められないとして、原告の請求をいずれも棄却したところ、原告がこれを不服として控訴した事案である。

 

判 旨 
 当裁判所も、原告商標と被告標章は、外観において類似しているとはいえず、 取引の実情を踏まえて全体的に考察しても互いに類似しているとは認められないから、原告の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、・・・原判決を引用する。                       引用部分(引用者注・要旨)は、原告商標と被告標章は、①外側の四角形がやや丸みを帯びた縁及び角を有する略四角形であるか (原告商標)、直線状の縁と略直角を有する四角形であるか(被告標章)、 ②内側の四角形がやや丸みを帯びた縁及び角を有するか(原告商標)、直線状の縁と丸められた角を有するか(被告標章)、③外縁部分の四隅には円型凹部が、上下左右の縁には棒状凹部が存在するか、④外縁部分の色が白色であるか(原告商標)、銀色であるか(被告標章)といった外縁部分に係る形状や色彩において相違が認められる。また、内側の四角形の内部や十字においても、⑤十字において、直線状の溝が存在するか、⑥十字の上下左右に外縁部分に向けた直線状の指示棒が存在するか、⑦十字以外の色が黒色であるか(原告商標)、赤色であるか(被告標章)、⑧十字の色が白色であるか(原告商標)、銀色であるか(被告標章)といった点において異なることが認められる。このように、原告商標と被告標章との間には、外縁部分、外側及び内側の四角形並びに十字の形状や色彩において、多くの相違点が存在しており、原告商標は、四角形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成の商標であり、取引者及び需要者としてもその相違点を看取しやすいことも踏まえると、原告商標と被告標章はその外観からして、取引者及び需要者に異なる印象を与えるものといえ、類似しているとはいえない。

コメント 
 本件事案では、原告登録商標と被告使用標章とが外観上非類似として、原告の控訴が棄却されたもので、原審と同旨である。本件判決は、類否判断部分については、原審判決を引用している。商標の類否は、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して判断すべきもので、これらの観点からしても、本件判断は妥当である。商標権者は、自らの類似範囲を広めに考える傾向にある。商標の使用を継続して周知・著名性を獲得すれば、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等の範囲は拡大しよう。