2024-10-15

工藤莞司の注目裁判:指定商品の取引の実情から要部観察を否定し、混同の虞もないとして審決を取り消した事例

(令和6年8月5日 知財高裁令和6年(行ケ)第10007号 「ジムニーファン」事件)

事案の概要 
 原告(出願人・審判請求人)は、「Jimny Fan」と「ジムニーファン」を2段に書した本願商標について、16類「印刷物」を指定商品として登録出願をしたが拒絶理由の通知を受け指定商品を「オフロー ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に補正したが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2023-12344)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて訴訟を提起した事案である。拒絶理由は、引用商標1(登録第6214256号)及び引用商標2(登録第6623643号)を引用した商標法4条1項11号及び本願商標は他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標とした商標法4条1項15号該当である。

判 旨 
 まず、客観的な事実として、スズキ社を含む自動車メーカーが自ら又は系列ディーラー等を通じて、「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」を発行している事実は認められない。のみならず、原告代表者によれば、スズキ社を含む自動車メーカーは、前述したジムニーのカスタマイズ市場等に係る業務に対して、第三者の活動を側面から援助することはあっても、主体的に関わることは避けていることがうかがわれる。このような中、本願商標を使用した本願補正商品に接した取引者・需要者において、スズキ社を含む自動車メーカー又はその系列ディーラー等が発行主体となっている(可能性がある)と認識するとは考え難い。本願商標の構成中の「Jimny」の欧文字及び「ジムニー」の片仮名を要部として抽出し、これを引用商標と比較して商標の類否を判断した本件審決の手法は誤り・・・。本願商標の全体観察を前提に引用商標との比較をすべきところ、・・・本願商標と引用商標1及び引用商標2は、商標全体としての外観が異なることはもとより、称呼及び観念も異なっており、両者の類似性を肯定することはできない。以上によれば、本願商標は商標法4条1項11号に該当するものではなく、取消事由1は理由がある。
 以上の事実関係に原告代表者の供述を総合すると、スズキ社がJimny商標の下で展開する業務としては、オフロード車(ジムニー)そのものにとどまらない関連グッズ、付随サービスを含み得るものではあるが、 「オフロード車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」に係る業務は、スズキ社又はその系列ディーラー等とは直接関係のない第三者によって提供されているのが実情であり、スズキ社とは抵触関係に立たない「棲み分け」が成立していると認められる。以上によれば、本願商標を本願補正商品に使用したとしても、スズキ社のJimny商標に係る商品・役務との混同を生ずるおそれは認められないというべきである。本願商標は、商標法4条1項15号に該当するものではない。

コメント 
 知財高裁は、本願商標について、商標法4条1項11号及び15号該当とした審決を取り消したものである。判決は、指定商品「オフロー ド車の改造に用いる部品及び附属品に関する情報雑誌」について、個別具体的にその取引の実情、特に自動車メーカーとの関係を否定し、棲み分けていると迄認定している。審決認定の「Jimny」と「ジムニー」の著名性を肯定しつつも、「Fan」と「ファン」の存在も重視した。指定商品の特殊性で、補正の効果でもある。証拠の外、職権で原告代表者尋問も行い、指定商品の取引の実情を丁寧に認定した稀有な事例である。