2024-10-07

工藤莞司の注目裁判:要部観察により類似商標と判断された事例(「iデンタルクリニック」事件)

(令和6年7月31日 知財高裁令和6年(行ケ)第10032号 「iデンタルクリニック」事件)

事案の概要 
 原告(出願人・審判請求人)は、本願商標(下図左掲)について、44類「歯科医業,矯正歯科医業,審美歯科医業,美容歯科医業,インプラント治療を含む歯科医業」等を指定役務として登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2023-6676)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。拒絶理由は商標法4条1項11号該当で、引用商標は「下図右掲」(登録5490039号44類指定)外1件である。

判 旨 
 本願商標の要部 本願図形部分からは出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められ、また、本願図形部分と本願文字部分は間隔を大きく開けて配置されており、商標全体としての構成上の一体性が希薄で、取引者、需要者がこれを分離して理解・把握し、本願文字部分から生ずる称呼によって取引に当たる結果、本願文字部分が独立した出所識別標識としての機能を果たすということができるから、本願文字部分が 本願商標の要部に当たるというべきである。

 本願商標と引用商標1について 本願商標の要部本願文字部分と引用商標1の要部引用1上段文字部分とは、「アイデンタルクリニック」の片仮名を共通にし、外観上近似した印象を与える相紛らわしいといえる。称呼においては、いずれも「アイデンタルクリニック」の称呼を生じ、両者は、称呼上同一である。観念においては、いずれも特定の観念を生じないから、両者は、観念上、比較することができない。 以上によれば、本願文字部分と引用商標1上段文字部分とは、観念において比較することができないものの、外観において相紛らわしく、称呼を同一とするといえることから、その外観、称呼及び観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標1は、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。

 本願商標と引用商標2について 本願商標の要部本願文字部分と引用商標2の要部引用商標2上段文字部分とは、その外観においては、語頭の小文字「i」と大文字「I」 の違い及び片仮名と欧文字という違いはあるが、我が国における英語や、歯科医院を示す「デンタルクリニック」「DENTAL CLINIC」の概念の普及に鑑みれば、その違いが、取引者、需要者に対し、出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえない。称呼においては、いずれも「アイデンタルクリニック」の称呼を生じ、両者は、称呼上同一である。観念においては、いずれも特定の観念を生じないから、両者は、観念上、比較することができない。以上によれば、本願文字部分と引用商標2上段文字部分とは、観念において比較することができないものの、外観において相紛らわしく、称呼を同一とするといえることから、その外観、称呼及び観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標2は、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。本願商標の指定役務と、引用商標の指定役務とは、同一又は類似の役務を含む。以上のとおりであって、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。

コメント 
 知財高裁も、本件事案に係る本願商標と引用各商標については、要部観察をして類似商標と判断したもので、審決と同旨であり、実務上屡々あり得る類似判断例である。実務家としては、事前調査段階で、引用各商標の存在を意識し、想定すべき先行商標である。                                          なお、本願商標の要部は文字部分のみ如きの認定をしているが、図形商標との類否判断では、本願商標の図形部分が要部となり得、分離観察として捉えるのが妥当である。もちろん要部は一個ではない。