(令和6年10月30日 知財高裁令和6年(行ケ)第10047号 「ゴジラ人形」立体商標事件)
事案の概要
原告(審判請求人・出願人東宝(株))は、本願商標(立体商標・右掲図外参照)は、出願分割による新出願(商願2020-120003)で、指定商品は「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」であり、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2021-11555)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は商標法3条1項3号該当である。知財高裁でも3条1項3号該当は審決が維持されて、以下は審決が否定した3条2項についての認定、判断である。原出願願(2019-131821)は登録された。
判 旨
映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、日本映画の歴代22位にランクされる興行収入を上げる記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26億5000万円を記録するなど、本件審決時までの約8年間に、本願の指定商品に集中的に使用された事実が認められる。加えて、シン・ゴジラの立体的形状は、本件特徴を全て備える点を含め、それ以前のゴジラ・キャラクターの基本的形状をほぼ踏襲しているところ、当該基本的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターの形状として広く認識されていたことが優に認められる。すなわち、①昭和29年に始まった映画「ゴジラ」シリーズは、その後60年以上の長きにわたり全30作にわたる新作を次々と公開し、累計観客動員数約1億2000万人を記録するなど、圧倒的な商業的成功を収めていること、②これらには、原告の「製作・配給」であること等が明記されていたこと、③この間の映画「ゴジラ」シリーズのビデオグラム及びゴジラのフィギュア商品の売上金額は、それぞれ百億円を大きく超えていること、④原告から商品化の許諾を受けた第三者企業によって販売されているものも多いが、原告が商品化主体を示す本件著作権等表示が付されていたこと、⑤原告のシンボル的なモニュメント巨大なゴジラ像は、繁華な商業施設を含む都内の複数の場所に恒常的に設定されている。さらに、「ゴジラ」の文字商標は、原告に係る映画のタイトル又は当該映画に登場する怪獣の名称として著名となっているところ(当裁判所に顕著な事実)、「シン・ゴジラ」を含む「ゴジラ」シリーズでは、怪獣のキャラクターに一貫して「ゴジラ」の名称が使用されている。本願の指定商品の需要者は一般消費者で、そうした需要者の認識としても、・・・アンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、極めて高い認知度が示された。・・・その回答結果は、シン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。
コメント 本件事案について、3条2項の適用、すなわち使用による識別力の獲得が争われて、知財高裁は原告の提出証拠に基づいて、これを認めたものである。シン・ゴジラ映画をモデルにした本願に係る立体商標について、シリーズ映画の人気、観客動員数、そして当該フィギュア人形の宣伝広告、販売実績、これらに伴う高いアンケート結果から需要者の認識としての認定、判断である。この点において知財高裁は、シン・ゴジラの立体的形状はそれ以前のゴジラ・キャラクターとは実質的同一とは認められないが、3条2項の需要者の認識の判断に際して、映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは妨げられないとした。ゴジラ・キャラクターの濃いイメージ・印象の継承からであろう。原告の商品化主体を示す著作権等表示も評価されている。原告は、原出願について3条1項3号該当の拒絶理由通知を受けて、分割出願をしての対処が功を奏したと言えよう。