(令和6年8月8日 知財高裁令和5年(行ケ)第10128号審決取消請求事件(A事件)、同第10129号 同請求事件(B事件)、同第10130号同請求事件(C事件)、同第10135号同請求事件(D事件)、同第10136号同請求事件(E事件)、同第10137号同請求事件(F事件)、同第10138号同請求事件(G事件))
事案の概要
A~C事件は商標登録を無効とした成立審決の各取消訴訟で、D~G事件は不成立とした審決の各取消訴訟である。原告(審判被請求人・商標権者)が有する各商標登録について、被告(審判請求人)は、本件各商標がいずれも商標法4条1項7号及び19号に該当し、本件商標Cは同項8号にも該当すると主張して、それぞれ登録無効審判を請求した。特許庁は、本件商標A~Cの登録を無効とする旨の成立の各審決を、本件商標D ~Gについては不成立の各審決をした。知財高裁に対し、原告は本件審決A~Cの取消しを求める各訴え(A~C事件)を、被告は本件審決D~Gの取消しを求める各訴え(D~G事件)を提起した事案で、併合して審理された。
判 旨
(成立審決に対する判断) 令和2年以降の原告の動きからすると、原告は、本件商標A~Cを出願した時点(令和2年12月26日及び令和3年6月30日)において、原告等と被告との紛争が顕在化し、本件ライセンス契約が終了した後はエンジェル1、2や 被告の名称が使用できなくなることを十分了知しながら、これらの商標の登録を得た後は、商標権に基づき、被告が自ら日本国内で展開するエンジェルや「Mark Gonzales」の名称を用いた商品の販売等の差止めを求めるなどして、原告等以外の者がこれらの商品を販売することを妨害、阻止する不正の目的、意図を有していたと認められる。そうすると、このような原告の本件商標A~Cの登録出願は、先願主義を採用している我が国の法制度を前提としても、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)に反し、公正な商標秩序を乱すものというべきであり、かつ、健全な法感情に照らし条理上も許されないというべきであるから、本件商標A~Cは、商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。
(不成立審決に対する判断) 本件ライセンス契約を締結した時点で、本件商標D~Gは、関係者間において何ら問題なく存続していたのであるから、契約終了後の帰属等については契約で規律することができたはずであるし、不当な権利行使については、別途権利の濫用や不正競争防止法等の規律により、またパブリシティ権の問題についても、 民事訴訟等で解決されるべき筋合いのものである。本件商標A~Cの登録出願に不正の目的があったからといって、原告が本件商標D~Gについて商標権を保持し続けることまでもが、商標法の目的に反して公正な商標秩序を乱すとか、健全な法感情に照らし条理上も許されないということはできない。したがって、本件商標D~Gが、商標法4条1項7号に該当するに至ったということはできないから、被告が主張する本件審決D~Gの取消事由には理由がない。
コメント
本件事案では、原告が有する7件の商標登録に対する無効審判でしかも成立審決と不成立審決と結論が分かれ、これが知財高裁では併合して審理され、それぞれの審決が維持された。理由が商標法4条1項7号違反で出願への不正の目的の存否である。それぞれ登録出願時の両当事者間の契約の経緯や事情等に時間差(A-D登録の約10年後E-Gの登録)による異同があり、それで結論に影響したと思われる。なお、7号違反は登録後の事情も参酌、すなわち審決時が判断時でもあり(46条1項6号)、判決の「7号に該当するに至ったということはできないから」とはその意味である。本件判決は7審決の併合事件で、しかも結論が違うもので稀有な判決である。