2024-11-12

工藤莞司の注目裁判:子供用椅子の形態について不正競争防止法2条1項1号で保護を求めたが棄却された事例

(令和6年9月25日 知財高裁令和5年(ネ)第10111号 「椅子形態」控訴事件 (原審・令和5年9月28日 東京地裁令和3年(ワ)第31529号)

事案の概要 
 原告X1はデザイナーAから原告製品(左傾図上参照)に係る著作権を取得し、原告X2は原告X1から同著作権の独占的利用権を取得し、原告製品を製造販売等している処、原告らが、被告に対し、被告による被告各製品(右傾図下参照外)の製造販売等の行為が、 ① 原告らの商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為(不競法2条1項1号、2号)、 ② 仮に①に該当しないとしても、原告X1が有する著作権及び原告X2が有するその独占的利用権の各侵害行為(著作権法21条、27条)に該当すると主張して、東京地裁に提訴したが棄却されて、控訴した事案である。

判 旨 
 商品形態の類否について 被告各製品の形態が、原告らの商品等表示と類似のものに当たるか否かは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日・民集37巻8号1082頁)。被告各製品は、本件顕著な特徴を構成している特徴①から特徴③までとの対比において、左右一対の側木の2本脚であり、かつ、座面板及び足置板が左右一対の側木の間に床面と平行に固定されており(特徴①)、左右方向から見て、側木が床面から斜めに立ち上がっており、側木の下端が脚木の前方先端の斜めに切断された端面でのみ結合されて直接床面に接していることによって、側木と脚木が約66度の鋭角による略L字型の形状を形成している(特徴②)が、側木の内側に溝は形成されておらず、側木の後方部分に、固定部材と結合してネジ止めするための円形状の穴が多数形成され、座面板及び足置板を側木の間で支持する支持部材、支持部材を側木の間において掛け渡された状態で側木に固定する固定部材及びネジ部材を備え、2本の側木後方に設けられた穴と固定部材を結合した状態でネジ部材を閉めることで、支持部材と固定部材によって側木を前後から挟持して押圧し、支持部材を側木に固定しており(構成f)、原告らの商品等表示の特徴 ③(引用者挿入 側木の内側に形成された溝に沿って座面板と足置板の両方をはめ込み固定する点(特徴③)を備えていないものと認められる。・・・よって、原告製品全体の形態の特徴である本件顕著な特徴について、被告各製品は、これを備えていないものと認められる。 したがって、被告各製品は、本件顕著な特徴を備えていないから、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるものということはできない。よって、原告らの商品等表示と被告各製品の形態が類似すると認めることはできない。

コメント 
 商品子供用椅子の形態について不正競争防止法2条1項1,2号(周知表示混同惹起行為等)該当性が争われて、原告の控訴が棄却された事例である。知財高裁は、原告商品の形態について商品等表示性及び周知性を肯定し、被告子供用椅子形態との類否判断をしたがこれを否定したもので、対比観察からである。結論は兎も角、この中で、引用最高裁判例(「日本ウーマンパワー事件」最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日)は商号や平面商標についてのものであり、これが商品形態にも妥当するかは疑問である。すなわち、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準としたが、商品形態に係る商品の取引きにおいて、その外観、称呼、又は観念をもっての取引が経験則であろうか。むしろ意匠の類似判断に近いのではなかろうか(意匠法24条2項)。しかも離隔観察が前提である。                                       本件控訴審でも、原告製品は専ら美的鑑賞目的で制作されたと認められないなどとして、著作権による請求も棄却された。