2024-12-17

イタリア料理の商標あれこれ100選「第4話:balsamico(バルサミコ)」

こんにちは、鈴木三平です。
第4話は「BALSAMICO」です。
以下の「ヨミダス」の出現件数のとおり、「バルサミコ」は、90年代後半に急速に普及した記憶がありますが、高価ゆえ、うっかりかけすぎてしまうと罪悪感にさいなまれますし、レストランでは、最初から「少しだけ皿に張り付いて」いるのが普通ですよね。

1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
balsamico[バルサーミコ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷17ページ)
形 芳香性の,香ばしい.aceto ~ → aceto

aceto balsamico(2ページ)
アチェート・バルサミコ(エミリア・ロマーニャ州のモデナやレッジョ・エミリアで算出される伝統的なぶどう液熟成酢).
注:形=形容詞

2.商標の状況

 

<(3)の登録異議(異議2000-090468)の異議決定文(登録維持)から抜粋>
 該構成中の「BALSAMICO」の文字部分は、その上部に表された「ACETO」の文字と一体のものとして表され、商品の普通名称「バルサミコ酢」を表示する語というべきである。
 してみれば、本件商標の構成中「BALSAMICO」の文字部分は、商品「バルサミコ酢」の普通名称を表したにすぎない語であり、自他商品の識別機能を果たし得ない部分と認められるものであるから、該文字部分より「バルサミコ」の称呼をも生ずるものとして、これが、引用商標と類似するという申立人の主張は採用できない。

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 82ページ
 (バルサミコ酢が、)「世界に広く知られることになったのは、1960~70年代にフランスで起こったヌーベル・キュイジーヌによって、希少な食材がこぞって使われるようになったからでしょう。」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「バルサミコ」の検索結果
 90年代後半から出現しだし、2001年以降、別のステージに入ったといえる。

 

4.コメント
 (3)の商標登録について、(1)の商標権者から2000年に登録異議申し立てがあった。「翻訳」すると、(3)を実際に商品(ラベル等)に使用すれば、(1)の登録商標「BALSAMICO」を使用することになる。よって(3)は先に登録された(1)と類似といえるから、登録を取消されるべきであるというところだろう。「実際に使ったら商標権侵害と判断されるだろうから、痛い目にあうぞ」というところである。
 しかしながら、(3)は(1)と指定商品も抵触しているけれども、類似とされずに登録された。そして、(1)の商標権者による「類似」という登録異議も認められていない。ヨミダス限りだが、(1)の登録の翌年に1件、7年後に1件と、当時はほとんど「バルサミコ」について情報がなかったところ、90年代後半から情報が出始め、(3)の出願前後から急増している。審査の段階でも、食酢について「バルサミコ(balsamico)」は、今や食酢の産地や内容品質であって「商標として機能しない」から、商標の類似の対象外とされ、登録異議の際にも同様に判断がされたものといえる。(1)の商標権は現在も存続しているが、少なくとも食酢や食酢を原材料にした商品に対しては、権利の中身は「空っぽ」と言わざるを得ない。もちろん「バルサミコ」とはいえないような酢等に「バルサミコ」と表示すれば、不当表示の問題が起こるが、特には触れない。

 ちなみに、「BALSAMICO」を一部に含む登録商標としては、(3)より(2)のほうが先であるが、異議申立等はなかった。(2)の登録を見て「ああ、バルサミコ酢といえるものであれば、「BALSAMICO」と表示しても、商標権侵害にはならないだろう。助かった。」と思ってほっとした人も、少なからずいたはずだ。

 比較的最近のものは(4)だが、
① 商標「ACETO BALSAMICO\DI MODENA」
② 商品「モデナ産バルサミコ酢,モデナ産バルサミコ酢入りの食品用調味料」につき、「商標として機能しない」等の理由で登録を拒絶されている。
① 商標の意味合いとしては「モデナ産のバルサミコ酢」であり、
② 指定商品も「モデナ産バルサミコ酢」等、
③ 出願人「CONSORZIO TUTELA ACETO BALSAMICO DI MODENA」は、「モデナ産バルサミコ酢保護協同組合」といったところなので、
④ 原則としては「商標として機能しない」という理由で登録拒絶でいいと思うが、日本国内で広く知られていれば、例外的な登録がありうる。

 つまり、日本には地域団体商標という制度があり、大雑把にいえば、
① 商標「地域名+商品の普通名称等」について、
② 適切な指定商品等で、
③ 一定のルールをクリアした組合による出願で(③には出願人を入れた)、
④ それなりに広く知られたものであれば、商標登録を認めるといえよう(④には番号と審査等の結果を入れた)。

 

 (4)については、③の組合に関する要件か、④の周知性を満たせなかったので、登録を認められなかったのであろう。知名度的には、「鎮江香醋」並みのものはありそうなので、このあたり、おそらく証拠をちゃんと出せなかった、言い換えると、頑張りが足りなかったということだと思う。例外的な登録だから、審査官任せではなく、自分たちで、③と④については、特に証拠を出さないといけないということなのである。なお、この状況下、「「BALSAMICO」部分があるから(1)と類似する」という拒絶理由は出ていない。

 ちなみに、(4)は、出願番号の欄に「国際登録」とあるが、日本における商標登録のように、審査を経た権利があるということではなく、「国際事務局の名簿に載っていて、その整理番号」程度の意味しかない。日本国内出願の出願番号と「同格」ともいえる。とはいえ、日本で権利化が認められても、日本の商標登録番号のように新たな番号はつかず、そのままこの番号を使うから、(6)のように日本で権利化されたものの国際登録番号は、日本の登録番号と同格というところである。検索に用いているJーPlat Patでは、権利が発生したものには*が小さくついているようである。

<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”Trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。

*「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
*「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 次回は、これも今となっては「まさかまさかまさか」の登録商標。「アルデンテ」について扱う予定。