2024-12-03

イタリア料理の商標あれこれ100選「第2話:Margherita(マルゲリータ)」

 こんにちは、鈴木三平(仮名)です。
 「イタリア料理の商標あれこれ 100選」の第2話は、「MARGHERITA」です。といいつつ、実はカナの「マルガリータ」と二段に書かれた商標です。いまや「ピザ・マルゲリータ」を聞いたことのない方は、「定義」と言われると困るとしても、ほとんどいらっしゃらないと思います。しかし、商標「MARGHERITA\マルガリータ」は、90年代に商標登録されていたことがあったのです。

1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
Margherita[マルゲリータ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷106ページ)
固女 イタリア国王ウンベルト1世の后.Pizza ~ 赤いトマト,白いモッツァレラチーズ,緑のバジリコでイタリアの三色旗を表したピッツァ.
注:固=固有名詞、女=女性名詞

2.商標の状況

 

無効平9-8715(商標登録を無効とした審決から抜粋)
 本件商標をその指定商品中、「生地の上に、トマト又はトマトソース、モツツアレツラチーズ、バジリコの3種類の具をのせたピザ」に使用したときは、単にその商品の1種類名(品質)を表示したにすぎず、又、上記以外の商品に使用するときは、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。

 各書証に掲載されている「マルゲリータ」と、本件商標中、下段に書された「マルガリータ」の片仮名文字とは、第3文字目において前者が「ゲ」、後者が「ガ」と相違しているものであるが、これは、下段の「マルガリータ」の文字が、前記種類のピザの意である上段の「MARGHERITA」の振り仮名と無理なく認識し得ることから、単に外国語の表音上の際(例えば、「ピツツア」と「ピザ」、「ダイアモンド」と「ダイヤモンド」等)にすぎないと判断されるものとみるのが相当である。

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 142ページ
「マルゲリータが誕生したのは1889年、時のイタリア王ウンベルト1世の王妃マルゲリータに捧げられて、が定説です。」「それまでポピュラーだったトマトとモッツァレラチーズの組み合わせに新たにバジリコを加え」「記念に「マリゲリータ」の名を冠した」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「マルゲリータ」の検索結果
 ノイズが多そうだったので、「マルゲリータ AND (ピザ OR ピッツァ)」で検索した。96年と2001年にわずかに1件ずつだったが、おそらく業界では。もう少し前から使われ、知られていたのであろう。

 

4.コメント
 商標「MARGHERITA\マルガリータ」が登録されたが、その後の審判請求によって、「商標として機能しない」ものであるとして登録が無効とされた事例である。現在では、必ずしも大きくないスーパーでも、パン、惣菜、冷凍食品、チルド売場等で、複数社の「ピザマルゲリータ」を目にすることができると思うが、かつては「マルゲリータ」はそれほど知られたものではなかったようだ。商標登録がされれば、原則としてその商標を独占的に使用できるが、登録のプロセスで、「商標として機能するかどうか」が審査される。それを判断すべき時期は、原則として登録査定(審査)時点である。本件について登録を無効(そもそもなかったものにすること)にするには、原則として登録査定がされた1991年以前の証拠が必要になるが、無効審判請求人は、登録から5年後、除斥期間(時効のようなもの)直前にもかかわらず、5年以上前の証拠を集め、かなり頑張ったようだ。これはファインプレーである。実は上記イタリア料理用語辞典の”Margherita”についても提出しているが、第1刷でもこの後の1992年11月の発行ゆえ、証拠としては採用されなかったようだ。しかし、IT用語ならまだしも、料理用語については、辞書類に掲載されるときには、その意味合いにたどり着くまでに長年の蓄積があったものであるあるから、査定後の発行だからダメではないと思うし、少なくとも無効の心証形成には貢献できるはずだ。
 本件は、加工食料品全般について登録が無効になった。現在では「加工食料品」というような広範囲の商品の指定は認められていないが、この分類には、コロッケやかまぼこ、焼き鳥や干し海苔、ジャムや豆腐、うどん麺や寿司、金山寺味噌や酒粕に至るまで、雑多なものが含まれまくっているので、それら全般についてまで登録を無効にしなくてもよかったような気もしないでもないが、権利者にとっても、これらの商品についてはどっちでもよかったのであろう。
 この結論によって、商標の登録がそもそも無かったことになるから、「MARGHERITA」の独占的使用権がなくなり、仮名の「マルゲリータ」についても同様と考えることができる。いわば、「ピザ・マルゲリータの解放」という意味で、妥当な結論であることに間違いない。もっとも、「下段の「マルガリータ」の文字が、前記種類のピザの意である上段の「MARGHERITA」の振り仮名と無理なく認識し得る」というところには、若干無理も感じないでもないが、まあいい、まあいい。

5、関連
 ちなみに、本件は登録無効だが、右掲商標は登録が維持された。
無効平9-8716(以下、商標登録を維持した審決から抜粋)

 「カクテルの一種」又は「カリブ海南部にあるベネズエラ領の島」を指称する語と同じ文字よりなる本件商標は、上記種類のピザ名を指称する「MARGHERITA(もしくはMargherita)」、又は「マルゲリータ」と異なる文字よりなるばかりでなく、その意味合いにおいても、別異なものといわなければならない。
 してみれば、本件商標は、その登録査定時において、上記種類のピザ名を表示する語よりなるものとはいえず、これをその指定商品に使用しても自他商品の識別機能を十分に果たし得ていたものというのが相当である。

<コメント>
 「MARGHERITA」は商標として機能しないから、登録したのは間違いだが、「MARGARITA」はそうではないとのことだ。90年代当時、「ピザマルガリータ」という「誤用」も多少はあったと審決にも書かれていたが、現在でこれをやったら「お恥ずかしい」ということになるだろう。その意味では、登録を無効にした上の審決も妥当であるが、維持したこちらの審決にも「先見の明」があったのかもしれない。

<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”Trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。

* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
*  番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 次回は、これも今となっては「まさか」の登録商標。「Peperoncino」について扱う予定。デザートからスタートしてピザ、パスタと、順番が滅茶苦茶であるが、そこはご容赦願いたい。