2024-12-20

工藤莞司の注目裁判:「ペン型データ入力具」は電子計算機に含まれないとして不使用取消審決が支持された事例

(令和6年10月31日 知財高裁令和6年(行ケ)第10045号 ZOOM不使用取消審判事件)

事案の概要 
 被告(審判請求人)は、原告トンボ鉛筆(審判被請求人・商標権者)が有する本件商標登録(「ZOOM」第4363622号)の指定商品のうち、9類「電子計算機、電子計算機用プログラム、電子式卓上計算機」(「本件取消対象指定商品」書換後のもの)について、商標法50条1項に基づき不使用取消審判(取消2021-300089) を請求した処、特許庁は成立審決をしたため、原告トンボ鉛筆は、原告ズームに、本件商標権のうち9類「電子計算機用プログラム」の指定商品に係る商標権を分割譲渡しその旨登録(登録第4363622号の2)を経て、原告らは、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。原告らは、各使用商品は、本件審決が筆記具として認定した16類商品と9類商品との2面性を有して、各使用商品は、ペン型データ入力具として、9類の「電子計算機」の範疇に属すると主張した。

判 旨 
 本件商標の本件書換登録後の指定商品「電子計算機」は、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むもので、その「電子計算機」に含まれる周辺機器も、中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみがこれに当たり、ハードディスクユニット等の電子計算機外部の周辺機器はこれに当たらない。本件商標の本件書換登録後の指定商品「電子計算機」の意味について検討した結果を本件に当てはめると、まず、使用商品2は静電容量式のタッチペン付きの尾栓であって、人の指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含む「電子計算機」に含まれるとは解しがたい。加えて、「電子計算機」につき、上記のとおり中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路等の周辺機器のみを含み、補助記憶装置であるハードディスクユニット等の電子計算機外部の周辺機器ですら含まれないと解されることからすれば、電子計算機の中央処理装置及び電子計算機用プログラムの記憶とは何ら関係しない使用商品2は、電子計算機に含まれる周辺機器に当たるものとは解しがたい。次に、使用商品1は、多機能ペンであって筆記具である上、静電容量式のタッチペン付きの尾栓を備えていることを考慮しても、上記と同様に、人の指などの導電性の物に代わる入力手段に過ぎないから、電子の作用をその機械器具の機能の本質的な要素としているものだけを含むとする「電子計算機」に含まれるとは解しがたく、・・・多機能ペンである使用商品1は、電子計算機に含まれる周辺機器に当たるとも解しがたい。その他、本件取消対象指定商品につき、本件要証期間における本件商標の使用の事実の立証はされていない。

コメント 
 本件事案では、指定商品9類「電子計算機」の意義、内容が争われて、知財高裁も原告主張の 「ペン型データ入力具」(判決では「多機能ペンの尾栓」)は含まれないとして、審決が支持されたものである。書換後の指定商品で、知財高裁はその経緯を丁寧に辿っているが結論には影響していない。現在では電子計算機が多くの商品の機能発揮に応用されているが、それが9類「電子計算機」自体に該当するとの認定は、分類等の解釈上も、当該商品の取引の実情からも困難であろう。最高裁判例に、政令別表の区分の名称、当該類に属する例示役務、省令別表に例示された役務と本件役務との横並び、国際分類の類別表注釈及び特許庁編「類似商品・役務審査基準」を考慮して解釈するとしたものがあり(平成23年12月20日 最高裁平成21年(行ヒ)第217号 民集第65巻9号3568頁)、本判決でも引用している。