2024-12-16

工藤莞司の注目裁判:商標法4条1項10号等を理由とした無効審判不成立審決が維持された事例

(令和6年10月29日 知財高裁令和6年(行ケ)第10006号 「Air liquid」事件)

事案の概要 
 原告(請求人)は、被告(被請求人・商標権者)が有する本件商標「Air liquid(標準文字・登録第6603048号)34類 指定商品「喫煙用薬草、喫煙用ライター、喫煙用具、喫煙パイプ用吸収紙、電子たばこ、水パイプ、電子たばこ用リキッド、喫煙者用の経口吸入器、たばこ、喫煙パイプ、代用たばこを含む紙巻きたばこ(医療用のものを除く。)、シガーライター用ガス容器、シガリロ」に対し、登録無効審判(無効2023-890005)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。無効理由は、商標法4条1項10号、15号及び8号、7号で、引用商標は「Air Liquide」の文字からなる。原告は、「Air Liquide」が構成に含まれる複数の商標について、商標登録又は国際登録を受けている。

判 旨 
 (4条1項10号について) 我が国において産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者を引用商標の需要者と解するとした場合、その中では、一定の範囲で、引用商標が日本エア・リキード社の商標として認識されていることは認められるが、フランス法人原告の商標として広く認識されているとは認められない。また、本件商標の需要者は、一般消費者のうち喫煙者及びたばこに関心のある者と解されるところ、産業ガス・医療ガスの供給を受ける事業者は、それに応じた設備等を有する者に限られることに鑑みれば、本件商標の需要者の大半は、産業ガス・医療ガスの分野の知識をそれほど有しないと推認され、本件商標の需要者の間では、引用商標が日本エア・リキード社の商標として認識されているとは認められず、まして、引用商標がフランス法人原告の商標として広く認識されているとは認められない。

 (4条1項15号について) 本件商標が引用商標に類似しているとは認められるものの、その余の事情を含め総合考慮すると、本件商標をその指定商品に使用したときに、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において、当該指定商品が原告の業務に係る商品と誤信するおそれがあるとは認められず、広義の混同を生ずるおそれがあるとも認められない。                            

 (4条1項8号について) 我が国において産業ガス・ 医療ガスの販売を行っているのは、原告の子会社である日本エア・リキード社であって、原告自体ではない。そして、日本エア・リキード社が原告の子会社であることが広く一般に認識されているとは認められないから、産業ガス・医療ガスの需要者が、日本エア・リキード社が引用商標を使用していることを一定の範囲で認識しているとしても、これによって、引用商標がフランス法人原告の名称の略称であることが一般に認識されていると認められない。他に、引用商標がフランス法人原告を指し示すものとして、我が国において一般に受け入れられていると認めるに足りる証拠はない。                                        

 (4条1項7号について) 本件商標の文字に引用商標の文字と共通する部分があることをもって、被告による本件商標の登録出願が、公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠くと解されることはない。したがって、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標であるとは認められない。

コメント 
 本件事案は、外国使用で我が国未登録商標を引用した無効審判不成立審決の取消訴訟である。原告は、4条1項10号以下の無効理由について争ったが、両者商品に関連性はなく、わが国での周知性も否定されて、何れもの理由も帯に短かし・・・の感である。敢えて言うならば19号が妥当しようが、被告に不正の目的の存在の立証が必要である。なんといっても、わが国での登録がベストで、管理の問題であろう。国内子会社も存在するのであるから、積極的な対応が望ましい。