こんにちは、鈴木三平です。
第8話は「BOLOGNESE」と「GENOVESE」「MILANESE」「NAPOLETANO」「SICIRIANO」です。イタリア北から南までというところですね。
ヨミダスの検索結果は、商標の指定商品等とからの関係ではノイズが多かったのですが、地域名としての表現が出るということは、商品等との結びつきがなくとも、多少は商標性を減ずるものといえそうなので、あえて除去しませんでした。いや、そうしないと作業が大変だというのも本音です。
なお、語尾に「ザ」「ズ」や「ナ」「ノ」がありますが、男性形・女性形やフランス語的表現で、気にせずに対応しました。
Ⅰ.BOLOGNESE
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
bolognese [ボロニェーセ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷22ページ)
形 ボローニャ(Bogogna)のalla ~ ボローニャ風.lasagne alla~ ボローニャ風ラザーニャ.
注:形=形容詞
2.商標の状況
<拒絶理由通知書(抜粋)>
「ボロネーゼ」の文字は、「ミートソースであえたパスタ料理。」(同「広辞苑」)の意味を有する語です。
3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 78ページ
挽き肉で作るミートソースといえば、ボローニャ(エミリア・ロマーニャ州)のサルサ・ボロニェーゼ」「イタリアを代表する世界的にも有名なものがサルサ・ボロニェーゼというだけで……」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ボロネー」の検索結果。
「ボロネーズ」と「ボロネーゼ」があるので、「ボロネー」で検索したが、115件あり、様々なノイズもありそうだったが、それなりの結果だとも思う。
4.コメント
商標の(1)で、「Salsa Bolognese」が、ボローニャ風ミートソース、つまりミートソース類をいい、「Bolognese」が「商標として機能しない」ということが見えている。(2)についてはまだ未確定だが、少なくとも「ボロネーゼ」が「商標として機能しない」ということには出願人も異論を唱えていないようである。
Ⅱ.GENOVESE
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
genovese[ジェノヴェーセ](上記の『イタリア料理用語辞典』81ページ)
形 ジェノヴァ(Genova)の.pesto~ ジェノヴァ風ソース(バジリコ,にんにく,松の実,ペコリーノチーズ,パルメザンチーズをすって練り合せたもので,パスタやスープに多く使用するペースト状のソース).
注:形=形容詞
2.商標の状況
3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ジェノベー」の検索結果
本件も「ジェノベー」と、語尾を除いて検索した。
4.コメント
先行の脅威となる登録商標が見つからなかったが、複数の企業がそんな危機を感じ、結託したかのように、「ジェノベーゼ」単独の権利化阻止に動いたような結果となっている。ただ、昨今では、メニュー「ジェノベーゼ」は「バジリコ」「バジルソース」ということが多いようで、今一つ見る機会が少ないような気もする。
Ⅲ. MILANESE
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
milanese[ミラネーセ](上記の『イタリア料理用語辞典』111ページ)
形 ミラノ(Milano)の.Alla ~ ミラノ風
2.商標の状況
3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ミラネー」の検索結果。語尾は「ゼ」以外に「ズ」も。
これも「ミラネーゼとはミラノ風である」というような記事に期待したが、少なかった。
4.コメント
「ミラネーゼ」については「ミラノ風」なのだろうけれど、今一つ「ミラノ風」が、需要者にどのような意味合いで「商標として機能しない」のかは明らかでない。
商標(2)については、何かと類似(おそらく(1)と)、及び「商標として機能しないという登録拒絶の理由があったことが分かった。(1)は更新をやめていて、(2)の「MILANESE」が、どのような意味合いで「商標として機能しない」のかは確認できていない。
なお、指定商品を同じくする「ミラネーゼ(2007-119926)」についても同様の流れとなっている。
(3)は類似の拒絶理由はなく、商標として機能しないという登録拒絶の理由が出たことが分かった。「ミラノ風の料理を提供している」の意味合いとして理解され、「商標としては機能しない」とされたものであろう。
なお、指定役務を同じくする「ミラネーゼ(2007-119927)」についても同様の流れとなっている。
Ⅳ.NAPOLETANO
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
napoletano [ナポレターノ](上記の『イタリア料理用語辞典』116ページ)
①形 ナポリ(Napoli)の.alla ~a ナポリ風.
注:形=形容詞
2.商標の状況
異議2010-900378(商標登録一部取消)の異議決定から抜粋
「『ナポレターナ』の語は、『トマトソースを使用したピザ、スパゲッティ』を指称するものとして普通に使用されていると認められるから、『ナポレターナ』の文字よりなる本件商標に接する取引者・需要者は、それより『トマトソースをベースとしたナポリ風のピザ』等を表しているものと容易に理解し、認識するにすぎないものとみるのが相当である。
3.その他情報
(1)上記の『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 76ページ
「ナポリ風は、イタリア語ではナポレターナnapoletana」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ナポレター」の検索結果語尾は「ナ」と「ノ」とがある。
予想外に少なかった。1993年はミュージカルの題名等。「ナポリターナ」はあるが、多くはイタリアの政治家の名前で、料理等の「ナポレターナ」までの影響は少ないと思って省略した。
4.コメント
「ナポレターナ」は、形容詞”napoletano”が、女性名詞”pasta”や”pizza”を形容するときに、語尾の”o”が”a”に変化し、それを仮名書きしたものである。商標(1)の一部登録取消によって、パスタやピザ等の「ナポレターナ」は「ナポリ風」を意味し、商標として機能しないとされたが、(2)はパスタソースについても同様であることを確認するための出願といえる。そのあたり、「需要者」の理解を基準とするが、一般消費者ではなく、イタリア料理店やメーカー、納入業者の認識でもいいので、まあ「ナポレターノ」でも「ナポレターナ」でも、そのローマ字でも、「ナポリ風」という調理法等の品質と理解されれば、「商標として機能しない」ものなのである。
もっとも、異議申立について、特許庁の審判官は、登録異議があった商品以外の商品について登録を取り消すことはできない(商標法43条の9第2項)。つまり、異議がなかった「即席菓子のもと,アーモンドペースト」等について、ナポリ風という意味合い等が認識され、「商標として機能しない」と審判官が考えていても、それらの商品について登録を取消すことはできず、これらの商品の商標権は2009年4月まで残っていた。
Ⅴ.SICILIANO
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
siciliano[シチリアーノ](上記の『イタリア料理用語辞典』160ページ)
形 シチリア(Sicilia)の.
2.商標の状況
異議平11-091198(商標登録一部取消)の異議決定から抜粋
指定商品中の「シチリア風のピザ、ミートパイ、ラビオリ」(ナスとトマトソースを使用したもの)等及びこれらの商品を作るのに適した「パスタソース、ミートソース、ピザソース等の調味料」について使用しても、これに接する取引者・需要者は、該商品が単に「シチリア風のピザ、ミートパイ、ラビオリ」若しくは「シチリア風のピザを作るのに適したパスタソース、ミートソース、ピザソース等の調味料」であると理解するに止まるものとみるのが相当であり、また、これを上記以外の商品に使用するときは、その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「シチリアー OR シチリアー」の検索結果。語尾は「ナ」と「ノ」とがある。
4.コメント
少なくとも上記商品について、「シチリア風」というのは自由使用だろうというところ。「ナポレターナ」がトマトソース使用、「シチリアーナ」が「ナスとトマトソース」使用でいいかどうかということには異論もあると思うけれど、「そんなところだから登録を消滅させるよ」という判断には間違いがないと思う。少なくとも一つの会社に権利を独占させてもいいような事情はなさそうだ。
Ⅳ同様、登録異議があった商品以外の商品について登録を取り消すことはできないから、「香辛料,米,脱穀済みの大麦,食用粉類,穀物の加工品」等についての商標権は2009年5月まで残っていた。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”Trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回8話めで、累積16件となった。次回は、乳製品(チーズ)について扱う予定。