2025-01-15

イタリア料理の商標あれこれ100選「第7話:affogato(アフォガート)ほか」

 こんにちは、鈴木三平です。
 第7話は「AFFOGATO」「CANNOLI(CANNOLO)」「ZALETI(ZALET)」です。菓子類についてもまだまだ序の口ですが、読んでいて胃もたれされても、当方は一切責任を取りません。

Ⅰ.AFFOGATO
1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
affogato[アッフォガート](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷4ページ)
②男 コーヒー,ソーダなどに浮かしたり,コーティング用チョコレートをかけたアイスクリーム.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

異議平11-091129(商標登録取消)
 「アフォガート」の語は、「ミルクと生クリーム、バニラ、ヘーゼルナッツパウダーで作ったジェラートに熱いエスプレッソをふり注いだデザート(菓子)」を表すものであり、メニューにもデザートの名称として使用されている事実を認めることができる。

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「アフォガー」の検索結果。グラフにするほどのこともないが、最近ではときどき出てくるというところ。

 

4.コメント
 ヨミダスでは前世紀には情報がなかったが、異議申立人の情報収集力が実ったのだろう。「これはデザートの種類の名前じゃないか」ということで、商標登録が取り消された事例である。素晴らしい仕事っぷりではないかと思うのだが…


Ⅱ.CANNOLI(CANNOLO)

1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
calnnolo[カンノーロ](上記の『イタリア料理用語辞典』34ページ)
男 (シチリア地方の)揚げた筒状の生地にリコッタチーズのクリームを詰めた菓子..
注:男=男性名詞

2.商標の状況

<拒絶理由通知書(抜粋)>
 本願商標に係る指定商品を含む食品を取り扱う業界において、上記本願商標の構成中の「Cannolo Siciliano」及び「カンノーロ シチリアーノ」の文字は、「筒状の生地にクリームを詰めたシチリアの伝統的な菓子」を表す語として広く知られています。
 そうしますと、「Cannolo Siciliano」及び「カンノーロ シチリアーノ」の文字を普通に用いられる方法で書してなる本願商標を、その指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「筒状の生地にクリームを詰めたシチリアの伝統的な菓子」であること、すなわち、商品の品質を表示したものとして認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当です。

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 208ページ
「マフィア映画に付きものの、甘~いお菓子はカンノーリ」
「筒状にカリカリに揚げた粉生地の中に、オレンジピールやチョコチップ入りの羊乳のリコッタチーズを詰めたカンノーリ」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カンオノーリ OR カンノーロ」の検索結果
 2022年に一時的に増えているが、連載記事のようなものだったかもしれない。いずれにしろ、件数はそれほど多くない。

 

4.コメント
 CannoliはCannoloの複数形で、かつては「カンノーリ」が登録されていたが、「イタリアンカンノーリ」が、「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶され、「カンノーロ シチリアーノ」も同様である。これはシチリアの代表的な菓子で、土産物でもあるから、一企業が商標権を独占することは相応しくないといえ、今や菓子類について、「商標として機能しない」と言っても問題なかろう。3.(1)によれば、マフィア映画では、シチリアの怖い人がこれを食べるシーンが、土地の一つの象徴として表現されているそうだ。痛い目にあいたくなかったら、権利を独占しようとするのは、諦めたほうがよさそうでもあるのかも。


Ⅲ.ZALETI(ZERET)

1.辞書情報
イタリア料理用語辞典
zalet[ザレット]男,zaleti[ザレーティ]男複(上記の『イタリア料理用語辞典』186ページ)
(ヴェネト地方の)小麦粉ととうもろこし粉で作る黄色いクッキー=gialletti.

注:男=男性名詞 男複=男性名詞複数形

2.商標の状況

異議2001-090591の異議決定(抜粋)
 「ザレッティ」(Zaletti)の語は、「イタリア・ヴェネト地方を発祥地とする小麦粉とトウモロコシ粉を原料とし、これにレーズン等のドライフルーツ、イタリア酒のグラッパ等を用いて作る伝統的な黄色のイタリアンクッキー」を指称する普通名称として使用されていることが認められる。
 してみれば、本件商標は、その指定商品中「クッキー」の普通名称よりなるものである。
 また、本件商標を「ザレッティ」以外の「菓子及びパン」に使用するときは、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものと認める。

 

3.その他情報
(1)「辻調おいしいネット / 料理概要」のウェブサイト
見出し「ザレーティ」
「とうもろこしの粉を使った素朴なお菓子です。お茶のお供に最適です。」
https://www.tsuji.ac.jp/oishii/recipe/m11003_outlline.html?CID=TJONCS0001&RECIPE_CD=m11003&RECIPE_TYPE=MAIN&&SEARCH_TYPE=
(2025年1月8日閲覧)

(2)「世界・海外のお土産」のウェブサイト
見出し「イタリア菓子 ザレッティ」
「ザエティとも呼ばれ、とうもろこし粉とレーズンからなるヴェネチア伝統菓子です。」https://omiyage.teacreate.com/shokai.php?i=2630
(2025年1月10日閲覧)

4.コメント
 いろいろ文字を変えて検索してみたのだが、「ヨミダス」ではそれらしきものが1件もヒットしなかった。
 とはいえ、(1)(2)の状況を見るに、「ザレッティ」は「商標として機能しない」から、上記のようなクッキーに使う限りは自由使用と言ってよさそうだ。
 さて、(2)は(1)の出願から約3か月後で、同じ出願人である。おそらく(1)の出願後に、類似先登録商標らしきものを見つけ、「類似あり」と判断がされれば、「ザレッティ」部分は「商標として機能しない」という自由使用を主張しようとしたものだと思う。(2)は審査官の拒絶理由通知があったが、上記商品に補正することで、「何かと類似」とはされていない。いっぽう、(1)は、詳細は分らないが、「先登録商標の何かと類似」という理由でいったん拒絶査定されている。そして不服審判を経て登録された後、登録異議で今度は「そもそも商標として機能しない」という理由で、「菓子及びパン」について登録を取り消されるという、なかなかドラマチックな流れである。ちなみに、「商標として機能しない」という場合、商標法3条1項3号(品質・原材料)というのが多いが、本件は1号(その商品等の普通名称)である。普通名称というのは、野球でいえば、ボテボテのピッチャーゴロ級で、かなり珍しいし、出願した商標担当としては、商品知識の欠如が疑われるから、食らいたくない拒絶等の理由である。
 それにしても、(1)の登録異議申立人、とある弁理士さんと同姓同名なので、おそらくそのクライアント企業からのダミー的な依頼なのだろう。新聞記事やネット記事も多くなさそうな状況で、「普通名称」の認定で登録を潰させるとは、その企業の商標担当が副業で菓子職人でもやっていて、あらゆる菓子のレシピ本のどこに何が載っているのか、熟知しているのかとまで妄想してしまう。

<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”Trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。

* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 累積11件となった。次回は「ボロネーゼ」「ジェノベーゼ」「ミラネーゼ」「ナポレターナ」「シチリアーナ」といった、「地域料理名」について一気に扱う予定。