こんにちは、鈴木三平です。
第9話はチーズ関係です。まずは「FORMAGGIO」「GORGONZOLA」「MASCARPONE」「MOZZARELLA」を扱います。皆様ご存じの基本アイテムかと思いますが、紛争のようなものはないものの、こんなところでも商標の出願があるのです。
Ⅰ.FORMAGGIO
1.辞書情報
formaggio[フォルマッジョ]《複-gi》(町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷74ページ)
男 チーズ.
注:男=男性名詞
2.商標の状況
<拒絶理由通知書(抜粋)>
構成中に、「チーズ」を意味する「Formaggio」の文字を有してなるものですから、これを本願商標に係る指定商品中「チーズを使用したパスタソース」以外の商品について使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものとみるのが相当です。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第16号に該当します。
なお、本願商標に係る指定商品を、「チーズを使用したパスタソース」に補正した場合は、この拒絶の理由は解消します。
3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「フォルマッジ」
思いのほか少なかったが、チーズについてわざわざ「フォルマッジ(オ))」というのは、5.関連の「クワトロフォルマッジ(4種のチーズ入り)」というときぐらいなのだろう。
4.コメント
出願時の指定商品は、単なる「パスタソース」だったが、商標中にチーズを意味する「Formaggio」があるから、チーズを使用していないものについては商標登録を認めないとされたもの。つまり、「Formaggio」の文字は商標として機能しないものであって、他人もチーズを使用したパスタソースに「Formaggio」と表示しても問題ないというところである。
5.関連
quattro [クアットロ](上記『イタリア料理用語辞典』140ページ)
形 4つの,4個の,わずかな.
<参考>
「ピザのちから」のウェブサイト
「クアトロフォルマッジとは?定義やレシピを徹底解説」の見出しの下、「クアトロ・フォルマッジ(Quattro Formaggi)の語源はイタリア語で、イタリアでは「クワットロ・フォルマッジ」と呼ばれています。クアトロは数字の「4」や「4つ」を意味しており、フォルマッジは「チーズ」の複数形を表している言葉です。つまり、クアトロ・フォルマッジとは、イタリア語で「4種のチーズ」という意味を指しています。」との記載がある。
https://media.pizzahut.jp/quattro-formaggi-pizza/
(2025年1月11日閲覧)
<コメント>
商標として機能しない等の理由で登録を拒絶されている。最近「クアトロフォルマッジ」と称する4種のチーズを使用したピザが結構出ている。なお、フォルマッジ(formaggi)はチーズを意味する”formaggio”の複数形。文法的には、「クアトロフォルマッジオ」と、語尾に「オ」をつけるのは間違いなのではないだろうか?
Ⅱ.MASCARPONE
1.辞書情報
mascarpone[マスカルポーネ](上記『イタリア料理用語辞典』107ページ)
男 マスカルポーネチーズ.
注:男=男性名詞
2.商標の状況
※ 商標公報には「31類 アイスクリーム、その他本類に属する商品」とあるが、「その他本類に属する商品」にチーズが含まれる。
3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 156ページ
(ティラミスは、ヴェネト州に)「隣接するロンバルディア州(州都ミラノ)の伝統菓子「クレーマ・ディ。マスカルポーネ」が原形になっているんですね。マスカルポーネチーズを甘いクリームに仕立てて容器に盛り、」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「マスカルポーネ」
Ⅲ.MOZZARELLA
1.辞書情報
mozzarella[モッツァレッラ](上記『イタリア料理用語辞典』114ページ)
女 モッツァレッラチーズ(水牛あるいは牛の乳で作る南イタリア産の軟質チーズ).
注:女=女性名詞
2.商標の状況
3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』86、87ページ
「1987年の法改正。それまで、牛乳を使ってモッツァレッラと同じ製法で作っていた「フィオール・ディ・ラッテ fior di latte(直訳は、牛乳の花)」というチーズがあったのですが、作り方も見た目も用途も、同じようなものだからということで牛乳製でもモッツァレッラの名称が許されるようになりました。」
注:それまでは水牛を原材料とするもののみ、この表示が許されていた。
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「モツァレラ OR モッツアレラ OR モツァレッラ OR モッツァレッラ」の検索結果
最近ではすっかり定着している。
4.コメント
本件は、商標の一部に「モッツアレラチーズ」があり、指定商品は出願時から「モッツアレラチーズ」であり、これが認められたということは、チーズに「モッツアレラ」は「商標として機能しない」という判断がされたものといえる。出願時期が2003年であって早くないこともあり、出願人に「モッツアレラ」を独占したいという気持ちがないことも明白である。本件は、審査を通過し登録査定がされたが(お金さえ払えば権利発生)、商品の販売をやめたのだろうか、登録料を納付しなかったため、出願が却下された。
イタリア等の欧州の加工肉(サラミやソーセージ類)、加工野菜、加工穀物(パスタ等)、ワイン等がそれなりに日本に入ってきている中、ナチュラルチーズは他の食品と比べて割高な感じがする(というと誰かに怒られそうな気もするが、何とかならないかと思う)。
Ⅳ.GORGONZOLA
1.辞書情報
gorgonzola[ゴルゴンゾーラ](上記『イタリア料理用語辞典』84ページ)
男 ゴルゴンゾーラチーズ.
注:男=男性名詞
2.商標の状況
<登録すべきと認めた審決(抜粋)>
不服2019-011566
我が国において,「GORGONZOLA」の文字は,イタリアで定められた産地で生産され,かつ,請求人による鑑定に合格したチーズの銘柄として用いられ,認識されていると判断するのが相当である。
3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』157ページ
「チーズではゴルゴンゾーラ」(注:ゴルゴンゾーラが町の名前であるという趣旨)
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ゴルゴンゾーラ」の検索結果
4.コメント
本件は団体商標の登録であり、有効な権利である。「その商品の品質・産地」等は商標登録されないが(商標法3条1項3号)、本件の出願人は「コンソルツィオ・ペル・ラ・トゥテラ・デル・フォルマッジョ・ゴルゴンゾーラ」、ゴルゴンゾーラチーズ共同組合のようなところだから、そのメンバーが共用するブランドとして登録が認められたといえる。
Ⅴ.PARMIGIANO REGGIANO
1.辞書情報
parmigiano[パルミジャーノ](上記『イタリア料理用語辞典』125ページ)
①形 パルマ(Parma)の.alla ~a パルマ風(パルメザンチースを使う料理に多くつけられる)
②男 パルメザンチーズ=~ reggiano.
注:男=男性名詞
2.商標の状況
審判平11-011435(拒絶査定不服。登録すべきという審決より抜粋)
請求人は、イタリア国内の特定の地域で製造される「PARMIGIANO-REGGIANO(パルミジアノ-レジアーノ)」の名称のチーズの生産並びに市場取引及び該名称の使用の保護等を行う目的で設立された組合であり、該組合には、イタリア国の法律、規則等により、「PARMIGIANO REGGIANO」の名称を使用し、チーズの生産、取引等の管理、認可をする業務が委託されていることが認められる。
そして、請求人は、イタリア国の法律、規則に基づいて、1950年代より上記「チーズの生産、取引等の管理」等の業務を行っているものである。
そうとすれば、「PARMIGIANO」及び「REGGIANO」の文字よりなる本願商標は、請求人の業務に係る商標として自他商品の識別標識としての機能を十分果たし得るものといえる。
3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』159ページ
これもチーズの多くがそうであるように、生産地の地名に由来します。生ハムの産地としても有名なパルマ。隣町のレッジョ・エミリア。それぞれの町の形容詞形であるパルミジャーノとレッジャーノをくっつけて、パルミジャーノ・レッジャーノと呼ぶようになりました。
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「パルミ(メ)ジャーノ」の検索結果。「パルメジャーノ」は111件中のわずか3件であった。
4.コメント
組合による出願で、組合員が使用するためのもの。「産地だから商標(商品の出所表示)として機能しない」という登録拒絶の査定であったが、「その産地の組合に係る商品の出所表示」であるとして登録が認められたものである。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回9話めで、累計21件となった。次回は、スープ類について扱う予定。