2025-01-14

工藤莞司の注目裁判:ギリシャ国が「ギリシャ」を含む商標について無効審判不成立審決を争った事例

(令和6年11月25日 知財高裁令和6年(行ケ)第10055号 「至福のギリシャ」事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人)は、被告(審判被請求人・商標権者)が有する本件商標「至福のギリシャ(標準文字)」、指定商品29類 「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」の登録(登録第6375329号)について、無効審判(2023-890033)を請求した処、 特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。無効理由は、商標法3条1項3号、4条1項16号、同7号、3条1項柱書き違反である。

判 旨 
 商標法3条1項3号該当性 本件商標は、「至福の」語が「ギリシャ」と組み合わされてなる商標であり、・・・「この上もない幸せの国ギリシャ」という程度の一つのまとまりのある意味を理解させると認められるから、ギリシャという国あるいは地域そのものを「至福の」という肯定的なイメージとともに需要者に想起させ、ヨーグルトである本件指定商品のイメージに仮託するものである。それは、・・・産地や販売地を記述的に表示したものではなく、ギリシャという国あるいは地域から連想される抽象的なイメージを利用して、ギリシャと何らかの形で関連する商品であることを表示するに止まるものであるから、その関連性は、産地や販売地に限られることはなく、「ギリシャ」を産地又は販売地として表示するものに当たるとはいえない。
 商標法4条1項16号該当性 本件指定商品は「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」であって、それがギリシャと関連を有する商品であることは明らかであるから、本件商標が、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とはいえない。
 商標法4条1項7号該当性 被告が本件商標を登録し、本件指定商品「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」について使用することが、社会公共の福祉に反し、社会一般の道徳に反するということはできない。
 商標法3条1項柱書の充足性 少なくとも、ヨーグルトの製造販売業者である被告において、将来的に「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」を製造販売する蓋然性はあり、本件商標を本件指定商品に使用する意思もあったと認めることができるというべきである。

コメント 
 本件事案では、ギリシャ国が直接無効審判を請求し、さらにその審決取消訴訟を提起したものである。本件商標に「ギリシャ」の国名を含むからであろう。しかし、知財高裁は、商標法3条1項3号、商標法4条1項16号及び7号該当性のいずれも否定した。3号は「産地、販売地・・・のみからなる商標」てあり、また指定商品が「ギリシャ国の伝統製法によるヨーグルト」であるからでもある。仮に商標権者が故意に指定商品と品質誤認のある使用をしたときは、不正使用取消審判の対象とされる(商標法51条1項)。