2025-01-07

工藤莞司の注目裁判:役務「医療用機械器具の貸与」と商品「医療用機械器具」は類似すると認められた事例

(令和6年11月11日 知財高裁令和6年(行ケ)第10028号 「AWG治療」事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人・引用商標権者)は、被告(審判被請求人)が有する本件商標の指定役務中、44類 「医療用機械器具の貸与」(請求の趣旨を減縮する旨の訴えの変更後のもの)について、商標法4条1項11号該当を理由に、登録無効審判(2023-890053)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、原告は、審決の取消しを求める本件訴えを提起した事案である。本件商標(第6320554号)に係る商標は、「AWG治療」を標準文字で表し指定役務 44類「医療用機械器具の貸与等」、引用商標(登録第6217436号)に係る商標は、「AWG治療」を標準文字で表し指定商品10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)、家庭用電気マッサージ器」である。

判 旨 
 商標法4条1項11号所定の商品と役務の類否は、それらの商品・役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあると認められる関係にあるか否かにより判断すべきである(「橘正宗事件」最高裁昭和36年6月27日 民集15巻6号1730頁参照)。具体的には、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている実情の有無・程度、商品と役務の用途の共通性、商品の販売場所と役務の提供場所の同一性、商品と役務の需要者の重なり具合等を総合的に考慮し判断するのが相当である。以上によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。このような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。

コメント 
 本件事案では、商品と役務の類否について争われ、審決は非類似としたが、知財高裁は類似と判断した。いずれも、前掲橘正宗事件最高裁判例に従ったが結論が違った。知財高裁は本件商標「AWG治療」を念頭に個別具体的に判断したが、審決は一般論のようである。原告が、取り消し請求指定商品を医療用機械器具と絞って、その取引の実情を積極的に立証等したのが功を奏したと思われる。                                                            因みに法律的には商品と役務は類似する旨規定されている(4条1項11号等)が、実際の審査、審判の実務では、積極的に争われない限り、判断されない。