こんにちは、鈴木三平です。
第11話はソース(料理名)関係です。「AMATRICIANO」「BOSCAIOLA」「CACCIATORA」「PEACATORA」「PUTTANESCA」を扱います。この関係、まだまだ「大物」が控えているのですが、今回は、木こり風、猟師風、漁師風等です。
Ⅰ.AMATRICIANO
1.辞書情報
amtriciano[アマトリチャーノ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷8ページ)
形 アマトリーチェ(ラツィオ州にある町の名)のall’~a アマトリーチェ風の bucatini all’~a 生のベーコン,赤唐辛子,トマトで作ったソースであえたブカティーニ.
注:形=形容詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 140ページ
「この料理名は、町の名のアマトリーチェ Amatriceに由来し、「アマトリーチェ風」という意味でアマトリチャーナ Amatrichanaといいます。」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「アマトリチャー」の検索結果

少ないとも、そこそこコンスタントともいえるが、2016年に一時的に件数が増えているのは、アマトリーチェで地震があり、「アマトリチャーナ発祥の地、アマトリーチェで地震」というような記事が複数あったためである。
4.コメント
商標(1)はもとより(2)とは商品・役務が異なり、抵触関係にないから、(1)の登録によって、加工食品類についての「アマトリチャーナ\AMATORICIANA」の使用に支障が生ずることはない。とはいえ、(1)が「日本料理を主とする飲食物の提供」についても登録される等、アマトリチャーナのメニューとしての知名度は今一つだったのかもしれない。日本料理でアマトリチャーナで思い出したのは、かつてときどき行った、人形町のおでん屋「ナポリ」なのであった。(2)が指定商品を「アマトリチャーナ(パスタ)用のパスタソース」として、「アマトリチャーナ用」の部分をいわば「権利不要求」として商標登録を受けることにより、「アマチリチャーナ」の自由使用が確立されたといえる。飲食店がメニューとして提供することも問題ない。
Ⅱ.BOSCAIOLA
1.辞書情報
boscaiola[ボスカイオーラ](上記『イタリア料理用語辞典』24ページ
形 女 木こり風.Spagetti alla ~ 木こり風スパゲティ(きのこを使う).
注:形 女=形容詞 女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ボスカイオーラ」
なし
(2)「みんなのきょうの料理」のウェブサイト
「おうちパスタ ボスカイオーラ レシピ 落合 務さん」の見出しの下、
「ツナとお好みのキノコをトマトソースで煮込みます。家にあるお好きな素材でどうぞ。」との記載がある。
https://www.kyounoryouri.jp/recipe/10161_%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%A1%E3%83%91%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%80%80%E3%83%9C%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%A9.html
(2025年1月23日閲覧)
4.コメント
キノコ入りのパスタを「ボスカイオーラ」と言って提供している店はそれほど多くはないけれど、「ボスカイオーラ」が「商標として機能する」ことははさそうだ。そうそう、最近職場の近くで「ツナ入りボスカイオーラ」をランチで提供している店を見たばかりだ。
Ⅲ.CACCIATORA
1.辞書情報
cacciatora[カッチャトーラ](上記『イタリア料理用語辞典』30ページ)
形 女 狩人の.alla ~ 狩人風.Pollo alla ~ 鶏肉のぶつ切りを,トマト,ローズマリー,にんにく,ヴィネガー,ワインなどで煮込んだもの.
cacciatore[カッチャトーレ](30)
男 狩猟家,猟師;豚肉の腸詰めの一種.
注:形 女=形容詞 女性名詞
男=男性名詞
2.商標の状況

異議2014-900158(商標登録一部取消)
本件商標は、その構成全体としても、これに接する取引者・需要者をして、「カッチャトーレ」という料理名を表示したものと認識させるにすぎないものというべきである。
3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カチャトー」の検索結果
「カチャトーラ」「カチャトーレ」が含まれるが少なかった。

4.コメント
商標登録異議申立の判断では、辞書の「カチャトーラ」の意味合いで「カチャトーレ」を認定したようにもみえるが、語尾変化の問題にすぎず、日本国内での実際の使用例から需要者の認識を考えると、細かく考える必要もなさそうだ。欧文字については、額面通りだと「CACCIA…」であるべきところが「CACCA…」と「I」が抜けているが、それで商標としての機能を出そうというのではなく、出願商標の見本を作るときに、元の文字をコピペせずに手打ちしたので「I」を見落とした程度なのではないか。結論に影響はなかった。
Ⅳ.PESCATORA
1.辞書情報
pescatora [ペスカトーラ](上記『イタリア料理用語辞典』130ページ)
形女 alla ~ 漁師風(魚介類,トマトを使う料理に多くつけられる). spaghetti alla~ 魚介類を入れ,トマトソースであえたスパゲッテイ.
注:形女=形容詞女性形
2.商標の状況

<拒絶理由通知書(抜粋)>
その構成中の「ペスカトーレ」の文字は、「スパゲティ料理の一種。いか・ムール貝・あさり・えびなどの魚介類を具材としたトマトソースのスパゲティ。」の意味を有する語であり、パスタ料理用の「ペスカトーレ」のパスタソースが販売されている事情にあります。
3.その他情報
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ペスカトー」の検索結果

4.コメント
Cacciatoraは「猟師風」で、こちらは「漁師風」である。商標についてはまだ未確定だが、「ペスカトーレ」が「商標として機能しない」ということは出願人も認めざるを得ない状況であろう。
Ⅳ.PUTTANESCA
1.辞書情報
puttanesca [プッタネスカ](上記『イタリア料理用語辞典』139ページ)
形 女 娼婦の.Spaghetti alla ~ 娼婦風スパゲッティ(ケーパー,黒オリーブ,アンチョビーをベースにしたソースであえたスパゲッティ).
注:形 女=形容詞 女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』136ページ
「黒オリーブやケイパーが入ったトマトソース和えのスパゲティが「プッタネスカ puttanesca」です。イタリア語では「娼婦風」のこと。知ってしまうと大声では注文しにくくなりますが…。」
(3)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「プッタネスカ」の検索結果

「娼婦風」だけあってか、さすがに少ない。
4.コメント
この商標、この指定商品の形で登録されたということは、「プッタネスカ」部分は、少なくともパスタソースについて「商標として機能しない」という判断がされていることになる。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”Trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回11話めで、累計30件となった。次回は、カクテルについて扱う予定。