2025-02-26

イタリア料理の商標あれこれ100選「第13話:vino[ヴィーノ]ほか」

 こんにちは、鈴木三平です。
 第13話からワインを3回ほど取り上げます。初回は「VINO」「SPUMANTE」」「CHIANTI(CLASSICO)」「LAMBRUSCO」「TREBBIANO」を取り上げます
<参考文献>
イタリアワインの教科書-イタリアワインのコンプリートブック よくわかる基礎からDOCG&DOC最新情報まで(IKAROS MOOK)
著者 林 茂 東京 イカロス出版 2016年11月

 Ⅲ.以降についてですが、「商品の産地」というのは、原則として商標として機能せず、商標登録も認められないのです。しかし、産地の組合等の集団が産地名等を語れば、その表示が「商品の出所」として認められ、商標登録もされるときがあります。ただし、その表示がある程度知られていて、しかも、その集団で、ブランディング(商品の品質管理等)が行われている必要があります。
 「産地とは商品の出所」というのは、言葉の持つ意味からは正しいとしても、特段の取り組みがなければ、その土地で産出したというだけであって、その土地の他の業者は全く違うものを作っている可能性があります。その場合、たとえば土産を購入することを想定すると、その地のものを勝ったけれど、語れるものがないということがありえそうです。
 仮に、商品に「おらが町の商品ならではの」というような、何らかの取り組みがされていれば、産地を表示するものが「地域ブランド」化し、その商品の出所表示(商標)となりうるのだと思います。そのためにはメンバー間のある程度の意思統一、たとえば品質管理ということです。かなりくどくなりましたね。
 今回の登録は「CHIANTI CLASSICO」だけですが、次回以降にはもう少し登録例があります。

Ⅰ.VINO
1.辞書情報
vino[ヴィーノ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷184ページ)
男 ワイン.ぶどう酒.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「(ヴィーノ OR ビーノ) and  ワイン」の検索結果

 

4.コメント
 まずは基本単語の「VINO\ヴィーノ」から。平凡な瓶の画像と「ViNO」の文字で指定商品が「ぶどう酒(訳)」。「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶されている。平凡かどうかというところに議論があるかもしれないが、文字「ViNO」は2文字めのみが小文字だけれど、自由使用というところには、まあ異論はないだろう。なお、国際登録出願のものは、指定商品を訳で表示している。


Ⅱ.SPUMANTE
1.辞書情報
 spumante[スプマンテ](上記『イタリア料理用語辞典』166ページ)
②男 発泡性ワイン,スパークリングワイン.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「スプマンテ」の検索結果
 「スパークリングワイン」と言ってしまえば済むためか、意外に少なかった。2009年のも競馬の馬名であるし…

 

4.コメント
 これも基本単語。上記商標については、指定商品に酒類が含まれていないため、登録を拒絶する理由は「商標として機能しない」ではなく、「品質誤認のおそれ」であった。つまり、「指定商品が「茶飲料等」であるから、「SUPMANTE」を使ったら、発泡性ワインと誤認されるから登録しない」ということだったのだろう。仮に指定商品がワイン類だったら、「発泡性ワイン,スパークリングワインを意味するから商標として機能しない」とされたはずである。これらの商品について「SPUMANTE」は自由使用ということなのである。同日出願の仮名「スプマンテ(2009-026184)」も同様だろう。


Ⅲ.CHIANTI(CLASSICO)
1.辞書情報
Chianti [キアンティ](上記『イタリア料理用語辞典』42ページ)
男 トスカーナ州キアンティ地方産の世界的に有名な赤ワイン.
classico[クラッシコ](同45ページ)
《複男 -ci, 複女 -che》形 古典の,伝統的な;古くからある特定のぶどう園(またはぶどう栽培地域)のぶどうから作られるワインに対しつけられる特定用語.
注:男=男性名詞 複男=複数男性形 複女=複数女性形 形=形容詞

2.商標の状況

<登録拒絶審決から抜粋>
 「CHIANTI」の文字が、辞書等において「イタリアのトスカーナ地方産の赤ワイン」という特定地方産の赤ワインとして紹介されたり、Chianti山脈という地名に由来したものと紹介されたりしていることや、指定商品を取り扱う業界において産地(地域)の名称として使用されるとしても、請求人も含め、特定の事業主体の扱うブランド名称といったような使用や認識のされ方がみられないことを考慮すれば、たとえ「CHIANTI」の文字を付したワインの流通量が一定程度あるとしても、当該ワインの出所と請求人との関連を認識することができる状態で当該ワインが流通し、又は宣伝広告されているということはできないものである。
 加えて、キアンティ(キャンティ)地方においては、請求人とは異なる事業者によるワイン「キャンティ・クラシッコ(Chianti classico)」等も生産されており、「CHIANTI」が当該ワインの産地名としても紹介された上で取引されている実情があることからすれば、「CHIANTI」の文字が、請求人のみによる使用により、請求人のみの業務に係る商品を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されるに至ったと認めることはできない。

 

3.その他情報
(1)「イエノミスタイル 家飲みを楽しむ人の情報サイト」のウェブサイト
「代表的なイタリアワイン『キャンティ』と『キャンティ・クラッシコ』、何が違う?」の見出しの下、「「キャンティ(Chianti)」は、おそらく世界一バリエーションの大変多いワインだ。『キャンティ』とは、土地の名に過ぎない。つまり、トスカーナ州のキャンティ地区で作られたワインは『キャンティ』を名乗ることができる。」「D.O.C.G.としてはイタリア最大で、ボトルにしてなんと年間1億3千万本ともいわれている。」「キャンティ」の選択で間違えないコツは、まず「キャンティ」と「キャンティ・クラッシコ」を区別することだと、イタリアではよく言われる。」「誤解を恐れずに言えば「キャンティ・クラッシコ」は「老舗」であり、その他の「キャンティ」は「新参者」である。」との記載がある。
https://www.ienomistyle.com/column/20170515-680
(2024年12月12日閲覧)

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「(キャンティ OR キアンティ) and ワイン」及び「(キャンティ OR キアンティ)and (ワイン and クラシコ」の検索結果
 「キャンティ(青部分)」は、「クラシコ」が入っていない記事の掲載数。
「キャンティ」だと「スキャンティ」その他ノイズが出るので「ワイン」で絞り込んだが、最近は「ワイン」と併用されずに「キャンティ」のみで表現されている記事が、少なからずあるのかもしれない。ただ「…クラシコ」については「ワイン」で絞らなくても同数であった。

 

(3)ワインに関する地理的表示の登録例
Chianti
File number PDO-IT-A1228
https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/details/EUGI00000003581

Chianti Classico
File number PDO-IT-A1235
https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/details/EUGI00000003623

4.コメント
 商標(1)(2)とも組合の出願である。(1)はキャンティワインの組合の一つの出願で、当初指定商品が「ぶどう酒」だったが、「「キャンティ」のPDO(原産地名称保護)の生産規則の規定に準拠したワイン」と補正され(いずれも翻訳ベース)、品質誤認や地理的表示の問題は回避された。しかし、「CHANTI」は複数の組合が使用しているので、一つの組合の商標権にはできないということである。なお、(2)については、キャンティクラシコの組合の出願で、指定商品を「イタリア産の…」として「イタリアトスカーナ地方産の」というように絞らせていない。出願人がそこまで絞り込めば文句は言わないが、特許庁としては、国さえ間違えなければ、その地域についてはその国で決める問題なので、あまり余計なところに首を突っ込まないとのことのようである。
 日本国内の出願人の事例だが、地域団体商標「淡路島たまねぎ」について、当初、一部の組合(注)の出願であったものが、他の組合でも量的にかなり使用されいて、「出願人グループのものとして広く知られているとはいえない」として登録を拒絶された(商願2008-003912)。そこで、他の組合との共同出願にすることにより、商標登録が認められた事例がある(不服2009-012251)。商標(1)にもそんな可能性があったのかもしれないが、組合同士が犬猿の仲であれば、不可能だろう。
 ちなみに、商標(1)の組合が出願した団体商標「CHIANT IGRAN SELEZIONE」について、(2)のクラシコの組合が、類似・混同等の理由で登録異議申立をしているから(商願2020-060281;異議2023-900249。登録維持)、両者は仲がよろしくないようだ。まあ、日本で「場外乱闘」などせずに、イタリア本国で話をつけておけと教え諭したいところである。
(注)実質的には淡路島の一部の組合の出願だが、出願人に法人格が必要で、この組合に法人格がないため、法人格がある上位団体の全農名義で出願していた。拒絶査定不服審判時に共同出願に名義が変更され、全農と他の組合の名義となって、最終的には登録すべきものと認められた。


Ⅳ.LAMBRUSCO
1.辞書情報
Lambrusco[ランブルスコ](上記『イタリア料理用語辞典』96ページ)
男 ぶどうの木の一品種;ランブルスコ種のぶどうから作るエミリア・ロマーニャ州産の赤ワイン.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)「エノテカ」のウェブサイト
 「コスパ抜群!ランブルスコの種類と選び方」の見出しの下、「イタリア屈指の美食の都エミリア・ロマーニャ州で生産されるスパークリングワインです。」との記載がある。
https://www.enoteca.co.jp/article/archives/2389/
(2025年2月2日閲覧)

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ランブルスコ」の検索結果
 散発的だが、業界人にはある程度知られているのであろう。

 

(3)ワインに関する地理的表示の登録例
Lambrusco Salamino di Santa Croce
File number PDO-IT-A0342
https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/details/EUGI00000004502

「日欧商事(JET)」のウェブサイト
「ブドウ品種辞典|ワイン」の見出しの下、
「ランブルスコ・サラミーノは、ランブルスコの中でも最大の栽培面積を誇る品種です。
長く小さめの円筒形の房がサラミを思わせることから、この名前で呼ばれています。サンタ・クローチェ・ディ・カルピが原産地であることから、ランブルスコ・サラミーノ・ディ・サンタ・クローチェとも呼ばれます。」との記載がある。
https://www.jetlc.co.jp/wine/grape/lambrusco-salamino/
(2025年2月11日閲覧)
 ランブルスコには様々な地理的表示があるようだが、上記で代表させた。

4.コメント
 本件商標は組合ではなく個人名義の出願であり、仮に登録されたら一騒動あったのかもしれない。まずは、商品の品質等だから「商標として機能しない」として登録を拒絶されている。おそらく「イタリア、エミリア・ロマーニャ州で生産されるスパークリングワイン」という商品の品質(種類)ということだと思う。そして、詳細は分からないが、おそらく上記の地理的表示との関係でも拒絶されたものであると思う。


Ⅴ.TREBBIANO
1.辞書情報
Trebbiano[トレッビアーノ](上記『イタリア料理用語辞典』178ページ)
男 ぶどうの木の一品種;トレッビアーノ種のぶどうからつくる辛口の白ワイン.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「トレッビアーノ」「トレビアーノ」の検索結果
 2017年の1件のみであった。「トレビアーノ」も0。確かに一般消費者に広く知られているとは言えないのかもしれない。小売店や飲食店でもよく見かけるので、検索に問題があったのかも。

(2)ワインに関する地理的表示の登録例
Trebbiano d’Abruzzo
File number PDO-IT-A0728
https://ec.europa.eu/agriculture/eambrosia/geographical-indications-register/details/EUGI00000002932
参考
Abruzzo[アブルッツォ](上記『イタリア料理用語辞典』2ページ)
固 男 イタリア中東部の州.
注:固=固有名詞 男=男性名詞

4.コメント
 いわゆる「小売等役務(小売や卸サービス)」に関する商標で、組合ではなく一般企業の出願である。当初の指定役務から、実質的には「果実酒の小売等役務」部分を削除して登録が認められている。Trebbianoはワインの一種類だから、ワイン(果実酒)の小売サービス等については「商標として機能しない」という判断がされたといえる。つまり、トレビアーノといえるワインに、上記表示は自由使用と判断されたということである。

<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 今回13話めで、累計37件となった。次回も、ワインの一部について扱う予定。