2025-02-11

工藤莞司の注目裁判:出願商標 「新生甘酒」について識別力なしとした審決が支持された事例

(令和6年12月19日 知財高裁令和6年(行ケ)第10038号 「新生甘酒」事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標 「新生甘酒」(標準文字)、 指定商品30類 甘酒、甘酒のもと、甘酒を使用した菓子及びパン、甘酒を加味した茶、甘酒を加味したコーヒー及びココア、甘酒を加味したアイスクリームのもと、甘酒を加味したシャーベットのもと、甘酒入りの穀物の加工品、甘酒入りの調味料」について拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判(2022-2257)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、本件審決の取消しを求めて、提訴した事案である。拒絶理由は商標法3条1項3号該当である。

判 旨 
 前記各事実によれば、本件審決がされた当時、飲料の名称の前に「新生」の文字を付して、当該飲料が「生まれ変わった」ものであること、すなわちその原材料、製法等を従前と変えて内容を新しくしたものであることを示す表現として用いる取引の実情があったと認められる。そうすると、本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、これが本願商標の指定商品に使用されたときには、原材料、製法等を従前と変えて内容を新しくした甘酒を一般的に指す名称であると認識すると認められる。そして、「新生」も「甘酒」も、辞書に掲載された一般的な語であり、これらを組み合わせた「新生甘酒」という語は、原材料、製法等を従前と変えて内容を新しくした甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、使用をされた結果需要者等が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについて商標登録を受けることができる場合(商標法3条2項)のほかは、特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないものと認められる。したがって、本願の指定商品の需要者等が、「新生甘酒」の語を「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせたものであると理解した場合、・・・特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないとされるものに該当し、その指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であると認められる。
 本願の指定商品の需要者等は、「新生甘酒」の語が「新」の文字と「生甘酒」を組み合わせたものと理解した場合、これが本願商標の指定商品に使用された場合には、需要者等は、その年に製造された生甘酒、又は製造方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を一般的に指す名称であると認識すると認められる。そして、「新」は、辞書に掲載された一般的な用語であり、飲料又は食料品を示す語の前に「新」を付すことについて上記のような取引の実情が認められ、「生甘酒」も、「加熱処理をせずに製造した甘酒」を示す語として用いる取引の実情があったから、これらを組み合わせた「新生甘酒」という語は、その年に製造された生甘酒、又は製造方法や特徴が従前のものと異なる新しい甘酒を表す場合に、普通に使われ得るものと認められ、・・・特定人によるその独占使用を認めるのは適当でないものと認められる。

コメント 
 本件事案は、知財高裁も識別力がないと判断したものである。本願商標「新生甘酒」は、「新生」の文字と「甘酒」の文字を組み合わせで、指定商品の品質表示と判断した素直な認定、判断である。原告主張の「新」の文字と「生甘酒」の組み合わせと理解した場合でも、同旨とした。過去の登録例は参考ともされない。なお、判決は、ワイキキ事件判例(昭和54年4月10日 最高裁昭和53年(行ツ)第129号 審決取消訴訟判決集昭和54年763頁)に従ったものと思われ、3条2項に該当する場合の外独占不適として3条1項3号該当との結論としているが、3条2項に該当する場合、何故独占不適が解消するのかを疑問とするのが私見である(拙著「商標法の解説と裁判例」改訂版82頁)。