(令和6年12月25日 知財高裁令和6年(行ケ)第10058号 立体商標「歯形模型用支持台」事件)

事案の概要
原告(審判請求人・出願人)は、本願立体商標(右掲図参照)について、指定商品を9類「歯科用歯形模型用支持台」(補正後)として登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定に対する不服審判(2022-18756)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は商標法3条1項3号該当で、3条2項の要件を具備しないとされた。
判 旨
本願商標の形状のうち、① 略楕円状の上面を有する直方体状の形状(底面は中抜き。)であり、② 上面及び側面に規則的に孔やくぼみ、突起などを配置した形状は、一般的な支持台の形状ということができる。また、本願商標の形状のうち、 ③その上面において、中央に5つの孔が一列に等間隔に並べられ、長手方向の両側縁の内側には、傾斜のある連続した突部が設けられ、その連続した突部の傾斜部には、半円状の切欠きが複数設けられた形状(第1特徴的形状)であること、前記連続した突部の一方と中央の連続した孔の間には、複数の小突起が一列に点線状に設けられた形状(第2特徴的形状)であることは、いずれも「歯科用歯形模型用支持台」(支持台)として、ともに「歯科用作業模型」を構成する「歯科用模型固定用プレート」(固定用プレート)の下面におけるダウエルピンの挿入だけでなく、切欠け部や突部との嵌合等により、両者が連結して固定され、又は連結強度を高めて確実に固定されるようにする商品の機能に資することを目的と認められる。さらに、支持台の上面における第1特徴的形状及び第2特徴的形状が、両側縁内側において連続的に突部が設けられたり、その一方と中央の連続した孔の間においても一列に点線状に小突起が設けられたりするなど、その配置は美感を高めるものと認められる。そして、同業者の同種の商品においても、上面の孔の周辺や縁辺等を含め種々の凹凸、くぼみ、突起等が設けられているものが多く製造販売されていることに照らすと、本願商標の各特徴的形状を含む形状は、客観的にみて、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものと認めるのが相当である。本願商標は、その需要者からみて、指定商品である歯科用歯型模型用支持台の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、自他商品識別力を有さない。したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し、商標登録を受けることはできない。
本願使用商品は一定の販売実績を上げているが、市場シェアが大きいと評価できないものであり、本願使用商品の広告においても、本願商品の支持台及び固定用プレートの商品名やタイプ、両者を組み合わせたり外したりした状態の写真等から自他商品の識別を行ってきたと認められるなどの取引の実情を考慮すると、本願使用商品の立体的形状が、その形状のみによって十分な自他商品識別力を獲得するに至ったと認めることはできない。
コメント
本件事案は、立体商標の識別力の有無についての争いで、知財高裁でもこれが否定されて、審決が維持されたものである。その理由として、「本願商標の各特徴的形状を含む形状は、客観的にみて、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のもの」として、取引者、需要者が予測し得る歯形模型用支持台の範囲を出ないものとされた。そして、3条2項の使用による識別力の取得も否定された。提出証拠では、本願形状以外の文字等で、識別力を果たしている例と認定された。指定商品の形状に関する立体商標については、機能性の発揮を追求し、また美観を高めたいとの商品の性質上、受け取る取引者、需要者の認識も同様で、その登録は困難であることを示した例である。立体商標について3条2項の適用が認められた事例として、最近では、「ゴジラ人形」事件がある(令和6年10月30日 知財高裁令和6年(行ケ)第10047号)。