2025-03-10

工藤莞司の注目裁判:控訴審迄争い高額な損害賠償額が認定された事例

(令和6年5月22日 東京地裁令和5年(ワ)第70103号 控訴審令和7年2月6日 知財高裁令和6年(ネ)第10051号「にじいろクリニック新橋」商標権侵害事件)

事案の要旨
 本件は、商標権「にじいろクリニック」(第6457577号)44類 指定役務「医業、医療情報の提供、健康診断、調剤等」を有する原告が、原告と被告との間で、インターネット上のコンテンツ、看板等から原告商標と同一又は類似する標章の一切を削除又は撤去し、同標章を今後使用しない旨合意をしたにもかかわらず、被告は、医業及び医療情報の提供に当たり、ウェブサイト、チラシ、掲示物、看板等の広告に被告各標章「にじいろクリニック新橋」外を使用していると主張して、被告に対し、損害賠償として損害金等の支払を、被告各標章の使用の差止め並びに当該広告に係るチラシ、掲示物及び看板等の廃棄を、謝罪広告の掲載をそれぞれ求めた事案に対し、第一審は、被告各標章は原告商標と類似すると認め、被告の先使用権は認められず、原告商標について登録無効理由の存在や権利濫用の抗弁も認められないとして、損害賠償請求については一部認容し、被告各標章の使用の差止請求並びに被告各標章を付したチラシ、掲示物及び看板等の広告の廃棄と本件ウェブサイトからの被告各標章の削除を求める廃棄請求については認容したが、謝罪広告の掲載請求については棄却した。これに対し、原被告双方が控訴した事案である。控訴審では、損害賠償額は別途認定したが、商標と被告標章の類似等は原審判決を引用(判旨参照)した。

判 旨 第一審
 原告商標と被告標章1「にじいろクリニック新橋」の要部は、「医業」及び「医療情報の提供」という同一の役務に使用された場合に、取引者、需要者において、その役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められるから、原告商標と被告標章1は、類似するというべきである。原告商標と被告標章2「にじいろクリニック」は、「医業」及び「医療情報の提供」という同一の役務に使用された場合に、需要者、取引者において、その役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められるから、原告商標と被告標章2は、類似するというべきである。原告商標と被告標章3「Nにじいろ/クリニック」の要部は、「医業」及び「医療情報の提供」という同一の役務に使用された場合に、需要者、取引者において、その役務の出所につき 誤認混同を生ずるおそれがあると認められるから、原告商標と被告標章3は、類似するというべきである。原告商標と被告標章4「N/にじいろ/クリニック」の要部「にじいろクリニック」は、「医業」及び「医療情報の提供」という同一の役務に使用された場合に、需要者、取引者において、その役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると認められるから、原告商標と被告標章4は、類似するというべきである。

控訴審 
 被告による原告商標権の侵害態様や原告との交渉の経緯等を考慮すれば、前記平均値よりも低い料率を認めることは相当とはいえないから、被告の主張も採用することはできない。当裁判所は、本件に顕れたすべての事情を考慮し、商標法38条3項に基づく損害賠償の額を算定する前提となる使用料率としては、4%をもって相当と認める。以上によれば、被告による原告商標権に対する侵害行為により原告に生じた損害額は、1959万2137円(相当使用料1776万7237円、商標権取得維持費用4万49000円、弁護士費用178万円)となる。原告は、謝罪広告の必要性を主張するが、原告による原告商標権の使用状況及び態様に照らすと、被告による商標権侵害行為が継続していることなどを考慮しても、謝罪広告を必要とする程度に原告の業務上の信用が害されたと認めることはできない。

コメント 
 本件事案については、控訴審迄争われた商標権侵害訴訟で、控訴審で、損害賠償額が755万6659円から1776万7237円と二倍以上増額認定された。それは両当事者間で、本件訴訟前に侵害を認め使用中止の話が付いたのに、被告が使用を継続した点から控訴裁判所は高額な認定に至ったと思われる。原告請求の謝罪広告は控訴審も認めなかった。抗弁等を含めて、被告の対応が商標法に沿っていないようにみえる。被告の控訴はすべて棄却された。