2025-03-03

工藤莞司の注目裁判:要部観察をした審決の類似判断が争われて審決が支持された事例

(令和7年1月30日 知財高裁令和6年(行ケ)第10083号 「BANSO」事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標(下掲左図参照)、35類「経営に関するコンサルティング並びにこれらに関する情報の提供、経営の診断又は経営に関する助言、事業の管理、市場調査又は分析」、41類「セミナーの企画・運営又は開催」(補正後)について登録出願をして拒絶査定を受け拒絶査定不服審判(2023-17809)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、本件審決の取消しを求めて提訴した事案である。拒絶理由は商標法4条1項11号該当で、引用商標は(登録第6089130号下掲右図参照)で、争点は要部観察の是非である。

 

判 旨 
 本願商標の文字部分と図形部分は、横方向の対比では、図形部分が文字部分よりも横長であるが、縦方向の対比では、文字部分が図形部分の1.5倍から3倍程度と顕著に大きい。本願商標は、必ずしも、商標全体の構成上の一体性の程度が高いということはできない。また、本願商標の図形部分は、何らかの意味のあるものが図形化されたと理解することは困難であり、装飾的なものにとどまるから、図形部分自体からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じるとはいえない。他方、本願商標の文字部分は、外観において最も強く注目される部分である。文字部分の「BANSO」は、辞書に載録されている語ではなく、本願商標の指定役務(35類、41類)との関連においても何らかの意味を有する語と認めることはできないから、一種の造語として認識され、「バンソー」又は「バンソ」との称呼が生ずる。そうすると、本願商標については、その文字部分及び図形部分の構成上の一体性の程度が必ずしも高いものではなく、その文字部分が取引者、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる一方、その図形部分からは出所識別標識としての称呼、観念が生じないものと認められ、本願商標の文字部分と図形部分が分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めることはできない。したがって、本願商標については、その構成中「BANSO」の文字部分を分離、抽出し、これを要部として他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。
 本願商標と引用商標の類否について ⑴ 本願商標の要部の文字部分と、引用商標の要部の文字部分とは、外観において、「BANSO」(いずれも「A」の文字の横棒を省略。)の欧文字を共通にしており、外観上類似する。また、両者は、称呼において、いずれも「バンソー」 又は「バンソ」の称呼を生じ、称呼が同一である。そして、両者は、観念において、いずれも一種の造語として特定の観念を生じないから、比較することができないものである。そうすると、本願商標と引用商標は、外観において類似し、称呼において 同一であるから、これらの外観及び称呼によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標は、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント 
 本件事案について、原告は要部観察を否定し全面的に争ったが、知財高裁も本願、引用商標は共に要部観察をして類似の商標と判断し、審決を維持したものである。知財高裁は、類否判断係る判例を氷山事件(昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日民集22巻2号399頁)から「SEIKO EYE」事件(平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日民集47巻7号5009頁)までを総動員しているが、要部観察は本件事案に即したもので、特段問題はない。原告は指定役務の類否も争ったが斥けられた。実務的に言えば、事前調査段階で知り得る先行商標であり、類否判断では回避できないとすれば、他の方法、例えば、不使用役務があれば取消審判や譲受(アサインバックを含む)が検討されるのが一般である。