2025-04-14

工藤莞司の注目裁判:不使用取消審判において通常使用権者の使用を認めた審決が取り消された事例

(令和7年2月13日 知財高裁令和6年(行ケ)第10071号 「大勝軒」不使用取消事件)

事案の概要
 原告(請求人)は、被告(被請求人・商標権者)が有する本件登録商標「大勝軒」(登録第3105120号)、指定役務42類「中華料理の提供」について、商標法50条1項に 基づき商標登録の不使用取消しの審判(2023-300154)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求める訴訟を提起した事案である。審決は、当該店舗グループに属する浅草橋大勝軒と被告との間には、本件商標をその指定役務について使用することについて黙示の合意(又は口頭での明示の合意)があったと推認でき、浅草橋大勝軒は本件商標の通常使用権者と認められ、浅草橋大勝軒はその店舗において、本件要証期間中に継続して、本件商標と社会通念上同一の商標をその指定役務「中華料理の提供」について使用していたとしたものであった。

判 旨
 本件審決は、被告と浅草橋大勝軒との間の通常使用権設定合意を認定できる根拠として、被告がグループ店舗の本店(人形町大勝軒)に代わり本件商標の商標管理をする立場にあったことを挙げているが、「人形町系大勝軒」といわれるグループ店舗は十数店もある中で、被告(当時の代表者の使者D)が本件商標登録取得後、その旨の報告と「大勝軒」の屋号の継続使用に関する話をしたのは、特に近しい関係にあった浅草橋大勝軒と本町店の2店だけだったのであり、被告が「グループ店舗の本店(人形町大勝軒)に代わり本件商標の商標管理をする立場」にあったとは考え難い。以上のとおり、本件において、被告が通常使用権という権利の付与に向けた明確かつ積極的な意思を示したといえるような客観的な事実は見当たらない。DとAの上記の口頭のやり取りをもって、本件商標の通常使用権の設定合意が成立したと考えることはできない。Dは、代表者尋問中で、被告が本件商標登録を得た後も浅草橋大勝軒が「大勝軒」の屋号を継続使用できるという認識であったと供述しており、Aとの間で平成8年1月頃本件商標に関する話をした目的が、「本件商標を使用することのできる権利の創設的な設定」にあったわけではなく、そのような効果意思を有していなかったことは明らかである。以上のとおり、浅草橋大勝軒が本件商標の通常使用権の設定を受けたと認めることはできない。そうすると、本件において、商標法50条2項に定める登録商標の使用の証明がないことになる。

コメント
 本件事案においては、被告側の浅草橋大勝軒の地位について、黙示による通使用権者と認定した審決の判断を、知財高裁はこれを否定し、本件登録商標についての使用の立証がないとして、不成立審決を取り消したものである。審決は立証趣旨に添い緩やかに認定したのであろうが、この点について、知財高裁は、法律の専門家でない一般人が「通常使用権」なる法律用語を知らなかったとしても、その内容に沿う効果意思を持って相手方との意思の合致に至ったと認められるのであれば、通常使用権設定の合意(口頭の合意)の成立を認めることに妨げはないが、本件は、そのような場合と異なると説示した。審決は当事者のレベルに合わせた行政としての立場かなともみられようが、原点に返れば、商標法の解釈、運用の問題であろう。