(令和7年2月5日 知財高裁令和6年(行ケ)第10079号 「LEADER」事件)

事案の概要
本件は、原告(審判被請求人・商標権者)が分割移転により取得した本件商標(右掲参照・登録第4129208号の2) 12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」について、被告(審判請求人)が登録無効審判(2022-890061)を請求し商標法4条1項7号に該当し同法46条1項6号により商標登録を無効にすべきとした処、特許庁は成立審決をしたため、原告は、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。審決は、本件商標に係る商標権の分割移転登録を行い・・・当該分割移転登録手続は、本件商品に係る我が国における事業を乗っ取ることで不正の利益を得る目的、又は当該事業を承継した審判請求人の我が国における事業に損害を与える目的などの不正の目的でされたものといえ、公正な取引秩序を乱すもので、したがって、本件商標は、4条1項7号に該当するとした。
判 旨
前記のとおり、①本件商標の分割前の商標は、本田技研工業が登録を受けて適正に保有され続けてきたものであり、原告は、正当な権利者本田技研工業に本件商標の譲受けを申し込み、本田技研工業の承諾を得て本件商標を譲り受け、本件分割移転登録を得たものであること、②本件商標の分割前の商標につき、米国リーダーバイク社や丁は商標法上何らの権利を有していなかったこと、③原告は、本件販売店契約に基づき、平成23年から同28年頃まで、米国リーダーバイク社の我が国における独占的な販売代理店であり、米国リーダーバイク社から本件商品を輸入して販売するとともに、米国リーダーバイク社が販売地域において登録した商標やそれに関連する米国リーダーバイク社ののれんを維持するために協力する義務を負っていたが、平成28年米国リーダーバイク社の破産を原因として、本件販売店契約は終了するとともに、米国リーダーバイク社から原告への自転車等の輸入も途絶えることとなり、また、本件販売店契約では、契約関係終了後の原告の義務を規律する規定は存在せず、原告と米国リーダーバイク社との関係は全て終了した状態となっていたこと、④このような状態において、原告は、本件商品の販売を継続する目的をもって、本田技研工業の承諾を得て本田技研工業から本件商標を譲り受け、本件分割移転登録を得たものであることが認められる。以上によると、米国リーダーバイク社の破産という原告に何ら責任のない原因によって米国リーダーバイク社との取引関係等が全て終了した原告が、当初から米国リーダーバイク社や丁には何らの権利がなかった正当な商標権者である本田技研工業の保有する本件商標分割前の商標のうちの本件商標部分を譲り受け、その分割移転登録を得たことが、著しく社会的妥当性を欠くものであるということはできず、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認できないものということもできない。
コメント
本件裁判例は、平成8年改正(法律第68号)された後発的無効理由に係るもので、極めて珍しい審決取消訴訟である。原告が分割移転により取得した本件商標が46条1項6号の登録後の事情により4条1項7号違反に至ったか否かである。被告は、原告が取引していた米国在会社(丁はその代表であった者)でその後破産した者を引き継いだ者である。原告の分割移転登録に不公正な目的等の存否が争点で、知財高裁はこれを否定し、審決を取り消したもので、取引先の破産後も原告は本件商品(自転車)の販売をする目的で分割移転を受けたとの認定、判断である。被告は、本件商標やその分割移転に何ら係っていない。