こんにちは、鈴木三平です。
第21話は再び、いや、「ティラミス」を入れると三たびの菓子類です。「CASSATA」「DOLCHE」「GELATO」「TORTA」「TORRONE」ですが、最近では結構目にするものもあるのではないでしょうか?
Ⅰ.CASSATA
1.辞書情報
cassata[カッサータ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷38ページ)
女 (シチリア島の)チョコレート,ヴァニラ,キャンディドフルーツと混ぜ合わせたリコッタチーズをはさんだケーキ;キャンディドフルーツの入ったアイスクリーム
注:女=女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カッサータ」。

2016年はノイズかもしれない。ここ数年で出てきているといえる。
4.コメント
商標(1)は生き残っているが、(2)は商標「わたぐも\綿雲」及び「Bean There」と類似するという理由で登録を拒絶されている。いわゆる「分離観察」である。しかし、(1)と類似とはされていない。ということは、ケーキ・アイスムリーム類で「カッサータ」といえば、いまやシチリア風のフルーツ入りのケーキやアイスクリームのことを指すという審査だったのであろう。それらの商品について「カッサータ」は登録商標(1)があろうとも、自由使用というべきである。
Ⅱ.DOLCHE
1.辞書情報
dolce[ドルチェ](上記『イタリア料理用語辞典』62ページ)
②男 菓子,ケーキ,砂糖菓子,デザート. ~ al cucchiaio スプーンで食べるケーキ類.
注:男=男性名詞
2.商標の状況

<拒絶理由通知書(抜粋)>
「金澤Dolce」の文字を普通に用いられる方法で書してなる本願商標を、その指定商品である「洋菓子」に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「石川県金沢市で生産ないしは販売される甘い洋菓子」であること、すなわち、商品の品質・産地・販売地を表示したものとして認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当です。
また、上記認定によれば、本願商標を本願の指定商品中の「洋菓子」について、「石川県金沢市で生産ないしは販売される甘い洋菓子」以外の商品に使用した場合は、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきです。

<拒絶理由通知書(抜粋)>
「富良野ドルチェ」の文字を普通に用いられる方法で書してなる本願商標を、その指定商品である「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)」に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「富良野で生産ないしは販売される甘い菓子・デザート類」であること、すなわち、商品の品質・産地・販売地を表示したものとして認識するにとどまり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものとみるのが相当です。
また、上記認定によれば、本願商標を上記以外の「菓子(果物・野菜・豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)」に使用した場合は、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきです。

<拒絶理由通知書(抜粋)>
構成中の「OIMO」の文字は「おいも(お芋)」の読みを欧文字で表したものと無理なく認められるものであり、「Dolce」の文字は、「菓子、甘いもの全般、デザート」等を指称する語であることからしますと、本願商標は全体として「おいも(お芋)のドルチェ(甘いもの)」の意味合いを容易に理解させるものです。
また、フルーツを使用した菓子等をフルーツドルチェと称するように、その素材の名称をドルチェの語の前部に付記する例は少なくなく、例えば、芋を使用した菓子についても、「おいものドルチェ」の語を使用している例が認められます。
そのため、本願商標を、その指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「芋を使用した菓子・デザート・甘いもの」であること、すなわち、商品の品質を表示したものとして認識するものとみるのが相当です。 また、上記認定によれば、本願商標を上記に照応する商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあります。

<不服2018-011258、(1)と類似するという拒絶査定を維持する審決から抜粋>
本願商標の構成中の「DOLCE」の文字は、それ自体が本願の指定役務との関係において、その識別力が高いとはいえないものであるとしても、取扱商品の品質を表したと直ちに認識させるとまではいえないものであって、識別力がないものとはいえない。
3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ドルチェ and (菓子 or スイーツ)」の検索結果

数にムラがあるのは、絞り込みが適切ではないためかもしれないが、そこそこコンスタントに用いられている用語であるといえる。
4.コメント
商標(1)が登録されている状況で、(2)(3)のような「産地+ドルチェ」を類似としてではなく、「商標として機能しない」という理由登録を拒絶している例があることからも、いまや「ドルチェ」は自由使用というところが可視化されている。
しかしながら、小売店の名称等が含まれる(5)は(1)と類似するという理由で登録を拒絶され、審判でも支持されている。菓子に関する商標と、菓子の小売等サービスに関する商標が類似する場合に併存を許さないということは理解できるが、そもそも菓子について空権化している商標を引用しているという点で、この審決には賛成できない。(5)について、商標として機能するのは図形部分のみであり、「DOLCHE」の文字部分は、「菓子類・スイーツを売っている」ことを表現しているにすぎないから、この部分は「商標として機能」せず、自由使用、類否判断の対象外というべきである。
Ⅲ.GELATO
1.辞書情報
gelato[ジェラート](上記『イタリア料理用語辞典』81ページ)
②男 アイスクリーム.
注:男=男性名詞
2.商標の状況

<審判平7-17995の審決(拒絶査定を維持)から抜粋>
全体の文字より「イタリア(ミラノ)風のアイスクリーム、シャーベット」を認識するに止まるというのが相当である。
そうとすれば、本願商標は、その指定商品中「イタリア(ミラノ)風のアイスクリーム、シャーベットを主とする飲食物の提供」に使用すると、その役務の質(内容)を表示するにすぎず、前記役務以外の役務に使用するときは役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2019-102486/40/ja
<登録拒絶審決(不服2021-002697)抜粋)>
本願商標は,その商品の主要な原材料である「糀」の文字を「ジェラート」の文字に冠し,「糀を用いたジェラート」であることを表したものと理解させるものである。
3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ジェラート and (アイス OR 氷)」の検索結果

4.コメント
商標(1)は1984年に登録され今でも生きているが、商標中に「GELATO」の文字を含む(2)が登録された1990年頃には、既にジェラートとはイタリア風のアイスクリームを意味することが知れ渡っていたといえそうである。(3)は外食サービスに関する出願で、審査における「商標として機能しない」という判断が、審判でも維持されている。
また、(4)については菓子等に関する出願で、異例ともいえる10件以上の閲覧申請が入っていたので、業界の関心が高かったことが伺えるが、(1)と類似と判断されず、「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶されている。「高級イタリア風アイスクリーム」程度の意味合いと判断されたのであろう。時がたち、2020年代になってくると、(5)のように「ジェラート」は審査・審判官も、登録商標の存在を無視するかのように、「ジェラートはイタリア風のアイスクリーム・シャーベット」と判断しているのである。
Ⅳ.TORTA
1.辞書情報
torta [トルタ](上記『イタリア料理用語辞典』176ページ)
女 タルト,ケーキ,パイ,タルト料理.
注:女=女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「トルタ」の検索結果は0であった。
4.コメント
「タルト」のことをイタリア語では「トルタ」というそうだ。本件商標はいったんは審査を通過して旧法の出願公告がされたが、登録異議申立によって登録が拒絶された。おそらくイタリアンスイーツ愛溢れる会社による「商標として機能しない」という主張が認められたのだろう。
Ⅴ.TORRONE
1.辞書情報
torrome [トッローネ](上記『イタリア料理用語辞典』176ページ)
男 ヌガーの一種(はちみつ,アーモンド,くるみなどを固めて作る).
注:男=男性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「トッローネ」は0であったが、「トローネ AND (ヌガー OR 菓子 OR スイーツ)」が2020年に1件あり、「トッローネ」関連の唯一の記事といえそうだ。
4.コメント
こんな辞書情報を読んでいると、噛めば「歯の詰め物が取れそうだ」と思ってしまう。本件商標も「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶されており、自由使用といえるものである。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回21話めで、累計68件となった。次回は、パン回りについて扱う予定。