こんにちは、鈴木三平です。
第22話はピザやパン関連です。私はどちらかというと米飯やパスタが好きですが、特に女性はパンに詳しい方も多いですよね。「BRUSCHETTA」「CALZONE」「GRISSINI」「PANNA COTTA」「PANZANELLA」ですから、少なくとも最後のもの以外は、見たことのあるものばかりではないでしょうか?
Ⅰ.BRUSCHETTA
1.辞書情報
bruschetta[ブルスケッタ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷27ページ)
女 ガーリックトースト(フランスパンをトーストしてにんにくをすりこんだもの).
注:女=女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 155ページ
「イタリアによくある田舎パン的な大型パンやバゲットの薄切りを、トーストしてからにんにくの切り口をこすりつけ、オリーブオイルを垂らしたものです。」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ブルスケッタ」。

4.コメント
上記商標については、パン等について「ブルスケッタ」は「商標として機能jしない」という判断である。出願も2012年とそれなりに新しく、そのころにはある程度新聞にも出てきているから、そのような需要者の認識はあったといえる。
Ⅱ.CALZONE
1.辞書情報
calzone[カルツォーネ](上記『イタリア料理用語辞典』32ページ)
②男 菓子,ケーキ,砂糖菓子,デザート. ~ al cucchiaio スプーンで食べるケーキ類.
(32)
男 (イタリア南部の)詰め物をしたピッツァ(ピッツァの生地に,生ハム,モッツァレラチーズ,バジリコなどをはさみ,油で揚げるか,オーブンで焼く料理).
注:男=男性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カルツォーネ」の検索結果。

85年に1件、02年2件のノイズがあったので、対象外とした。2年に1回程度出てくるというところか。
4.コメント
ピザ等について「カルツォーネ」が「商標として機能する」というのは無理という判断。そろそろ審査官も、新聞記事検索とともにインターネット検索を審査に使い始めた時期ではないかと思うが、結論に異論を唱える人も少ないだろう。
Ⅲ.GRISSINI
1.辞書情報
grissini[グリッシーニ](上記『イタリア料理用語辞典』86ページ)
男複 ≪grissinoの複数形》グリッシーニ.
grissino[グリッシーノ](87) 男 グリッシーニ(棒状の乾パン)
注:男=男性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「グリッシーニ」の検索結果。

4.コメント
商標の出願は2005年だが、さすがにこの時期であれば、審査官が誰であっても「グリッシーニ」の登録を認めることはないだろう。
Ⅳ.PANNACOTTA
1.辞書情報
panna [パンナ](上記『イタリア料理用語辞典』124ページ)
女 生クリーム.
~ cotta 生乳,生クリーム,アイジングラスで作る菓子.
注:女=女性名詞
2.商標の状況

<拒絶理由通知書の抜粋>
構成中「焼き」の文字部分は「焼くこと。焼いたさま。」を意味する語であり、また、その構成中の「パンナコッタ」は、「(煮た生クリームの意)生クリームに砂糖を加え、ゼラチンで固めたイタリアのデザート。」を意味する語として広く使用されているものです。[いずれの語も出典:株式会社岩波書店 広辞苑第七版]
その指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は「焼いて製造するパンナコッタ」程の意味を認識、理解するにとどまり、単に、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認めます。
3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「パンナコッタ」。

4.コメント
商標(1)は、一旦出願をパスした(旧法の出願公告決定)が、登録異議申立てによって「商標として機能しない」旨で登録を拒絶されている。おそらく(2)の「パンナコッタ」の説明と同旨であろう。異議申立人が21話の「トルタ」と同じ人(会社)の可能性もあるのではないか? 仮にそうだとすれば業界への貢献度は極めて高いと思うのだが、本人が教えてでもくれないと、確認するのは難しそうだ。紙の書類の時代のもので、拒絶が確定したものについて、おそらく特許庁にも書類が保管されていないためである。
Ⅴ.PANZANELLA
1.辞書情報
panzanella[パンツァネッラ](上記『イタリア料理用語辞典』124ページ)
女(トスカーナ地方の)薄切りの田舎パンにトマト,玉ねぎ,セロリ,バジリコをのせ,酢とオリーブ油をかけた料理.
注:女=女性名詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 33ページ
「トスカーナ州にも硬くなったパンを水や酢でもどして生野菜と混ぜたパンツァネッラPanzanellaというサラダがあるし、」
ということは、菓子・パンよりもサラダに近い料理なのかもしれないが、原材料にパンがあるので今回取り上げることにした。
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「パンツァネッラ」。

4.コメント
上記は「商標として機能しない」という理由で登録が拒絶されている。米国での登録を基礎とした国際出願であるが、日本の審査は厳しく、登録を認めなかった。ううむ、審査官頑張ったなあ。この判断プロセスを通じて、少なくとも米国よりも日本のほうが、イタリア料理への造詣が深いというプライドを示せたのかもしれない。米国には、未だ「へなへな」のスパゲティを食べさせる店が、たくだんありそうだもの。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回22話めで、累計73件となった。次回は、パンツァネッラの続編という訳でもないが、バーニャカウダやカポナータ、カプレーゼといった野菜メニュー等が登場する予定。