2025-05-08

イタリア料理の商標あれこれ100選「第23話:野菜の加工品」

 こんにちは、鈴木三平です。
 第23話はサラダ等の野菜の加工品です。「BAGNA CAUDA」「CAPPONATA」「CAPRESE」「ORTOLANO」「PASSATA」です。

Ⅰ.BAGNA CAODA;BAGNA CAUDA
1.辞書情報
bagna caoda, bagna cauda[バーニャ・カオダ,バーニャ・カウダ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷16ページ)
女(ピエモンテ地方の)にんにくとアンチョビーで風味づけした熱いオイルに生の野菜をつけて食べるフォンデューの一種.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 155ページ
「にんにくとアンチョビをすりつぶし、オリーブオイルに混ぜて温めたソースを、生やゆでた野菜につけながら食べる「バーニャ・カウダ Bagna caoda」「バーニャはピエモンテではソースのこと。「カウダ」は「カルド(熱い)」のなまった言い方で、」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「バーニャカウダ」。

 

4.コメント
 商標(1)は指定商品との関係で登録されたので、「バーニャカウダ」が「商標として機能しない」ことが可視化されているといえる。その後に(2)の出願があったが、しっかり「商標としての機能がない」として登録拒絶されていて、バーニャカウダは自由使用といえる。


Ⅱ.CAPPONALDA;CAPPONATA
1.辞書情報
capponalda, capponata[カッポナルダ,カッポナータ](上記『イタリア料理用語辞典』35ページ)
女 (リグーリア地方の)水に浸したビスケット,オリーブ,ケーパー,アンチョビーなどを混ぜたサラダ.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 177ページ
「ラタトゥイユは南仏プロヴァンス、カポナ-タはイタリアの生まれ。」「そして見た目は……なす、玉ねぎ、ピーマン、ズッキーニなどの野菜をオイルで炒め(あるいは揚げて)、多くはトマト味で煮込んだもので、確かに似ています。おおざっぱにいえば同じようなもの、といっていいでしょう。」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カポナータ」の検索結果

 

4.コメント
  障害・脅威となるような商標の出願を見つけることはできず、また、上記の商標がファーストケースであるのかどうか分らないが、「カポナータ」の自由使用を可視化してくれたという点での貢献は小さくないだろう。


Ⅲ.CAPRESE
1.辞書情報
caprese[カプレーセ](上記『イタリア料理用語辞典』35ページ)
①女 トマト,モッツァレッラチーズ,バジリコなどを材料にしたサラダ.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

<不服2014-02149の審決から抜粋>
 該文字は、原審説示の意味合い(注:「商品の外観が美しいカプレーゼ」程の意味合い)を暗示させる場合があるとしても、その指定商品との関係においては、商品が有する一定の品質を表示するものとして認識し、理解させるものということは困難である。

<拒絶理由通知書から抜粋>
 該文字は、「薄切りのモッツァレラチーズとトマトにバジルを添え、オリーブ油をかけたサラダ」[出典:株式会社岩波書店 広辞苑第七版]等を意味する語として広く使用されているものです。
 そして例えば、以下の引用情報からも伺い知ることができるとおり、本願指定商品を取り扱う業界において、「カプレーゼ」の文字が、「トマト、モッツァレラチーズ、バジルソース、オリーブ油等のカプレーゼの材料を使用した商品」を表すものとして、「カプレーゼ風味の」程の意味合いで使用されている実情がありますので、本願商標全体として「カプレーゼ風味の商品」程度の意味合いを容易に理解、認識させるものです。

3.その他情報
 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カプレーゼ」の検索結果。

 

4.コメント
 商標(1)の時代、「カプレーゼ」を知るものはほとんどいなかっただろうから、登録もやむを得ないだろう。しかし、遅ればせながら、2013年にもなると、(2)のように「商標として機能しない」という理由での拒絶も出てきた。(3)は登録審決だが、「カプレーゼ」部分は「商標として機能する部分ではない」ことを前提にしている。そして、ウェブで無料で拒絶理由を読める(4)によれば、とうとう広辞苑に掲載されるレベルに至っていて。到底商標として機能する者とはいえないことが、明らかだと言える。


Ⅳ.ORTOLANO
1.辞書情報
ortolano[オルトラーノ](上記『イタリア料理用語辞典』120ページ)
②形 菜園の.all’ ~a 菜園風.
形:女=形容詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「オルトラーナ」。

 

4.コメント
「菜園風」に「商標としての機能」があるかどうかは微妙だと思うが、商標(2)のような付記的な表現には(1)の権利が及ばないということを可視化しようとしたものといえる。


Ⅴ.PASSATA
1.辞書情報
passata[パッサータ](上記『イタリア料理用語辞典』126ページ)
女 トマトピュレ.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

<異議2009-685016(商標登録一部取消)の異議決定から抜粋>
 「PASSATA(パッサータ)」の文字は、「裏ごししたもの」、「裏ごししたトマト」、「トマトピューレ」を意味する語として、「pomodoro(ポモドーロ)」の文字は、「トマト」、「トマトソース」を意味する語として、さらに、「PASSATA di pomodoro(パッサータ・ディ・ポモドーロ)」文字が、「トマトピューレ」「裏ごししたトマト」を表示するものとして、本件商標の登録査定時において、取引上普通に使用されていることが認められる。
 そして、本件商標は、前記のとおり、その構成中に「PASSATA di pomodoro」の文字を有してなるものである。
 そうすると、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者及び需要者は、その構成中の「PASSATA di pomodoro」の文字より、その商品が「トマトピューレ」「裏ごししたトマト」であると認識するにすぎず、その指定商品中、「Preserved,dried and cooked vegetables,tomato extracts,tomato juice for cooking,tomato preserve,peeled tomatoes.」については、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
 したがって、本件商標の登録は、その指定商品中、上記の商品について、商標法第4条第1項第16号に違反してされたものというべきである。

3.その他情報
 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「パサータ or パッサータ」。
0件であった。

4.コメント
 本件商標は、国際登録を基礎とした日本への出願で、指定商品は英語であるが、翻訳ベースでコメントする。まず、本件商標は他の文字商標や図形もあって、全体として商標として機能するものではある。しかし、商標中に「PASSATA\di pomodoro」の文字が含まれている。これは、この商品の需要者(日本におけるイタリア料理店が含まれる)に、「トマトピューレ」又は「裏ごししたトマト」であると理解されるものである。よって、これら以外の指定商品(例えばホールトマト=peeled tomatoes)にこの商標を使用すると、「トマトピューレ」等と誤認されるおそれがあるから、指定商品中、「トマトピューレ」「裏ごししたトマト」以外の商品については登録を取消すというものである。
 つまり、「トマトピューレ」「裏ごししたトマト」について「PASSATA\di pomodoro」は、商品の内容等を記述したものであって、「商標としては機能しない」、つまり、この文字だけを出願したら登録を拒絶される、自由使用のものであるということになるのである。
 「その商品の需要者」とは、必ずしも一般消費者ではなく、イタリア料理の店(プロ)も含まれ、彼らに知られた業界用語のようなものも、一業者に独占させるのは適切ではない、登録を拒絶され、又は取消し、無効の対象となるのである。

<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 今回23話めで、累計78件となった。次回は、ポルチーニ等も含め、野菜や果実について取上げる予定。