2025-05-27

イタリア料理の商標あれこれ100選「第25話:米」

 こんにちは、鈴木三平です。
 前回は横にそれましたが元に戻り、第25話は米関係です。「ARANCINO」「RISO」「RISOTTO」です。

Ⅰ.ARANCINO
1.辞書情報
arancino[アランチーノ](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷12ページ)
②男 小さなオレンジ;チーズ入りのライスコロッケ=~i di riso.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「アランチーナ(ニ・ネ・ノ)」。

 

(2)「地球の歩き方」のウェブサイト(2020)
 「アランチーノとアランチーナの違いって?」の見出しの下、「昨夏シチリアで、主人(イタリア ピエモンテ人)が 「アランチーノください!」と注文したら、「アランチーナのことね!」(シチリア人)に訂正されました。日本語でいうところのライスコロッケ。シチリアの東西では呼び方が異なるのです。カターニャを中心とした東側では、アランチーノ(男性名詞 単数形)アランチーニ(男性名詞 複数形)。パレルモを中心とした西側では、アランチーナ(女性名詞 単数形)アランチーネ(女性名詞 複数形)となります。」との記載がある。
https://www.arukikata.co.jp/tokuhain/248212/
(2025年5月22日閲覧)

4.コメント
 「ナ・ニ・ネ・ノ」の語尾があるというのも珍しいのではないか。男性名詞が「ノ」で複数だと「ニ」、女性名詞が「ナ」で複数だと「ネ」ということだそうだ。
 商標(1)は80年代の登録で、日本にイタリア料理屋は数少ない時代、「アランチー〇」を知っている業者も、この出願人以外にはほとんどなかったのだろう。
 さて、(2)の指定商品がこれでいいのかどうかはともかく、商品が抵触関係にある(1)と類似とされずに登録されたことにより、(2)は(1)より先に権利が消滅しているけれど、Arancini di risoは、イタリア風ライスコロッケメニュー名として、商品に使う自由が確立されたと言ってよいだろう。
 なお、「ライスコロッケ」は、あまり肉の含有率は高くないような気もするが、コロッケの一種ということで、「食肉の加工品」として審査がされている。


Ⅱ.RISO
1.辞書情報
riso [リーソ](上記『イタリア料理用語辞典』146ページ)
男 米.
注:男=男性名詞

「コトバンク」のウェブサイト出典:伊和中辞典 2版
「riso3」の見出しの下、
「[名](男)〔英 rice〕
1 〘植〙イネ.
2 米
un sacco di ~|米1袋 brillare [mondare] il ~|イネを脱穀する cqua di ~|重湯 farina di ~|米粉, しん粉 ~ in bianco|〘料〙(シンプルな味付けの)バターライス minestra di ~ e prezzemolo|〘料〙米とパセリ入りスープ budino di ~|〘料〙ライス・プディング ~ punto|(メリヤス編みの)編み目.」との記載がある。
https://kotobank.jp/itjaword/riso#w-2279444
(2025年5月22日閲覧)

2.商標の状況

<拒絶理由通知書から抜粋>
 この商標登録出願に係る商標は、その構成中にイタリア語で「米粉」程の意味合いをを認識させるところの「RISO FARINA」及び「リソファリーナ」の文字を有しているものですから(別掲)、これをその指定商品中「和菓子,洋菓子,パン」について、「米粉を使用した商品」以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものと認められます。

3.その他情報
 特に有用な情報なし。仮名・ローマ字ともなかなか検索が難しい。

4.コメント
 商標(1)は「商標として機能しない」以外に「何かと類似}という拒絶理由が通知されているが、指定商品の補正状況を見るに、先登録類似商標については、米や米の加工品以外の商品(アイスクリーム用凝固剤等)についてのものであったようだ。というのは、米等と違い、「RISO」が商標として機能しそうな商品であるからである。
 (2)は商標中に「RISO」の文字があり、「米を使用した商品」について登録が認められたものである。つぎのように考えると整合性がある。
(i) 商標として機能するのはこの文字以外の部分である。
(ii) この文字部分は商標として機能しないとともに、米を使用した商品以外に使用すれば、米を使用した商品と誤認のおそれがあるため、指定商品は「米を使用した商品」に限定されている。
 (3)も商標中に「RISO FARINA」が含まれ、「米粉を使用した商品」以外の登録は認めないということで商品をそのように補正して認められたものであり、「RISO」は米を意味するから穀物の加工品等について商標として機能しないという判断がされている。なお、(3)の審査では、イタリア料理用語辞典が引用されている。


Ⅲ.RISOTTO
1.辞書情報
risotto [リソット](上記『イタリア料理用語辞典』147ページ)
男 リゾット.~ alla milanese 米をバターでいため,スープ,サフランを加えて黄金色に炊いた料理.
注:男=男性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 98ページ
 「リゾットも、パスタと同じように「アル・デンテ」の煮上りが求められます。とはいえ、米はわざわざ芯を残すことで歯ごたえを出しているのではなく、…」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「リゾット」の検索結果

 

4.コメント
 商標(1)は1985年の登録であるためか、指定商品について特許庁からの補正の指示により、最終的には「シチュー」類となっている。「リゾット」部分が「商標として機能しない」と判断されたゆえとまでは言い切れないかもしれないが、少なくともこの登録を根拠に、他人の「リゾット」と表記した商品に対して権利行使することは困難であろう。
 (1)の権利消滅後の(2)を見れば、商標と指定商品との関係から、「リゾット」が「商標として機能しない」ことは、この時期の審査で認められたことが分かる。もっともこの出願は1996年、登録が1998年だから、新聞記事で「リゾット」がコンスタントに出るようになった後である。したがって、この審査を見るまでもなく、既にリゾットが商標として機能しないことは明らかになっていたといえそうだし、うまく調査できなかったが、(2)の審査以前に何らかの判断が出ていた可能性もあるかもしれない。

 なお、「ドリア」については「和製仏語」ぐらいが適切なところか?
「コトバンク」のウェブサイト(出典:和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典)
「ドリア」の見出しの下、
「ドリア【doria(フランス)】
バターライスまたはピラフの上にベシャメルソースをかけ、オーブンで焼いた料理。◇神奈川県横浜市にあるホテルニューグランドが1927(昭和2)年に開業したときの料理長だったサリー・ワイルが考案したものとされる。」との記載がある。
https://kotobank.jp/word/%E3%81%A9%E3%82%8A%E3%81%82-3183945#w-1495677
(2025年5月22日閲覧)


<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 今回25話めで、累計85件となった。次回は、パスタ類も含めた小麦・大麦関係を取上げる予定。