2025-05-07

工藤莞司の注目裁判:出願商標の要部より生ずる称呼において引用商標と類似するとされた事例

(令和7年2月27日 知財高裁令和6年(行ケ)第10091号 「コネクトワン」事件)

事案の概要
 原告は、本願商標(右掲参照)について9類及び42類に係る商品及び役務を指定し登録出願をしたが、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2023-8403)の請求をした処、特許庁は不成立の審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。拒絶理由は、商標法4条1項11号で、引用は商標「コネクトワン」(登録第5071069号)、9類及び42類に係る商品及び役務の指定である。両者の指定商品・役務は省略したが、判決でも、指定商品・役務は同一又は類似のものと認められるとされた。

判 旨
 本願商標においては、その構成中、「ConnecT.one」の右側文字部分が、取引者・需要者に対し商品及び役務の出所識別標識として強い印象を与えるものと認められる一方、左側図形部分などそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念は生じないものと認められ、商標の各構成部分が不可分的に結合しているものともいえない。したがって、本願商標については、その構成中、「ConnecT.one」の右側文字部分を分離、抽出し、これを要部として引用商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。
 本願商標と引用商標の類否について ⑴ 本願商標の要部である右側文字部分と引用商標とは、外観において、文字の種類(本願商標の要部は欧文字、引用商標は片仮名)及び「.」の有無(本願商標の要部は有、引用商標は無)において相違する。しかし、商標の構成文字の種類を同一の称呼の範囲内で変更し、例えば、英文で表記された文字の発音をカタカナで表記することは一般に行われていることであり(証拠略)、また、本願商標の要部における「.」は、文字の大きさに比して小さく表記され、取引者・需要者に対し顕著に異なる印象、記憶、連想等を与えるものとはいえない。さらに、本願商標の要部と引用商標は、「コネクトワン」の称呼において完全に同一である。そして、本願商標の要部と引用商標は、いずれも造語として特定の観念を生じないから、観念において両者の比較をすることはできない。そうすると、本願商標の要部と引用商標は、「コネクトワン」の称呼において同一であり、観念において比較することができず、「コネクトワン」の 呼称を生ずる本願商標の右側文字部分が、前記のとおり、外観上も取引者・ 需要者に対し商品及び役務の出所識別標識として強い印象を与えるのであるから、取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標は、商品及び役務の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント
 本件事案は、本願商標について要部観察の是非が争われ、知財高裁もこれを認めて、引用商標と類似すると判断し、審決を維持したものである。原告は全体観察をすべきと主張したが、結合商標に係る最高裁判例を踏まえ、文字部分も要部と認定し、称呼類似としたものである。この争点はこれまでも多くの裁判例で争われ、判例も3件ある。「リラ宝塚事件」判例(最判昭和38年12月5日 昭和37年(オ)第953号 民集17巻12号1621頁)、「セイコーアイ事件」判例(最判平成5年9月10日 平成3年(行ツ)第103号 民集47巻7号5009頁)、「つつみのおひなっこや事件」(最判平成20年9月8日 平成19年(行ヒ)第223号 裁判集民事228号561頁)で、実務家も必読の判例である。