(令和7年4月10日 知財高裁令和6年(行ケ)第10101 「SCANTECH」事件)

事案の概要
被告(審判被請求人・商標権者)が有する国際登録第1496667号商標(「本件商標」右掲参照)は、7類、9類及び42類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として登録されたもので、原告(審判請求人)は、本件商標について、商標法4条1項10号及び15号該当を理由に、本件商標の9類の全ての指定商品及び42類の指定役務中「computer system analysis;・・・ massive data analysis computer services.」(「請求商品及び請求役務」)について登録無効審判(2022-680001)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。引用商標は「SCANTEC」を横書きし使用商品「表面欠陥検査装置」である。
判 旨
(商標法4条1項10号について) 原告は、これら廉価版のモニターに「SCANTECELEMENTS」又は「SCANTECELEMENTS2」の文字が表示されるなどと主張するが、これらは引用商標そのものではなく、引用商標の周知性を基礎付けることにはならない。 原告は、業界団体主催の展示会への出展数の多さを周知性の根拠として主張し証拠を提出するが、同証拠によっても、その出展回数や頻度は1年間に1,2回程度というので、決して多いとはいえない。そして、同証拠によれば、展示会への出展者数については、100社から500社程度であり、参加者数が5000人から4万人以上であったということからすると、これらの展示会にはある程度の来場者があったとはいえるものの、原告の出展ブースに来場した者の数の分かる証拠もない以上、こうした出展の事実をもって引用商標の周知性を認めることもできない。 業界新聞への掲載回数は、30年近くの間に12回程度であり、専門誌への記事や広告の掲載回数も27年間で40回程度であり、それらの掲載は散発的で、その回数も必ずしも多いともいえない。しかも、これらの記事が掲載された業界新聞や専門誌の発行部数の詳細も本件証拠上不明で、上記の事実をもって、引用商標の周知性を認めることはできない。
上記のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時において、引用商品又は本件商標の請求商品及び請求役務の需要者の間に広く認識されているとは認められないから、本件商標につき商標法4条1項10号該当性は認められない。
(商標法4条1項15号について)上記のとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時において、我が国の取引者及び需要者の間に広く知られているものとは認められないから、本件商標が請求商品及び請求役務に使用された場合、取引者及び需要者をして引用商標を連想又は想起させることは考えにくい。そうであるとすると、本件商標が請求商品及び請求役務に使用された場合、これらが原告らあるいは原告らと経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であると誤認させ、商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるとはいえない。したがって、本件商標につき、商標法4条1項15号該当性は認められない。
コメント
本件取消訴訟は、商標法4条1項10号及び15号事案で、引用商標の周知性が否定されて、審決が維持されたものである。周知性については、「出願の時において全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも1県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要する。』(「DCC事件」昭和58年6月16日 東京高裁同57年(行ケ)第110号 無体裁集15巻2号510頁) とした先裁判例があり、周知であるか否かは、使用期間、使用地域、生産、販売又は取扱い数量、宣伝広告回数等の使用実績に基づくもので、立証責任は保護を求める側にある。本件では、原告の立証が成功しなかったもので、10号違反は登録主義の例外であり、それなりの丁寧な立証が求められる。本件事案では、使用商標との同一性なしの外、業界団体主催展示会への出展数や業界新聞への掲載回数の実績が足りないと指摘された。