こんにちは、鈴木三平です。
第30話、最終回です。いや、また何か見つかったら書くかもしれません。そして、まとめも作成しようと思います。なぜか最終回にアンティパスト(前菜)を持ってきました。あとは、今や知らぬ者はないアラビアータとカルボナーラです。
Ⅰ.ANTIPASTO
1.辞書情報
antipasto[アンティパスト](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷11ページ)
男 前菜,オードブル.
男=男性名詞
2.商標の状況

<異議2000-090070(商標登録取消)の異議決定から抜粋>
最近の旅行、グルメブームも背景にあって、世界各国の食文化に需要者一般の関心が高まっている状況にあり、「アンティパスト/Antipasto」の語は、イタリア語の辞書(辞典)のみならず、食べ歩き関連の書籍及び世界各国の料理・国内外のレストラン等を紹介する事の多い各種月刊誌、さらに、近年、急速に利用されているインターネット(ホームページ欄)等においては、一般にイタリア料理の「前菜」(オードブル)を指称する語として使用されていることが認められる。
3.その他情報
新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「アンティ(チ)パスト(タ)」。

4.コメント
加工水産物については、同じ者が本件より数年前に同じ商標について登録を受けていたが(第3057644号)、権利拡大を図ったところ、いったん登録されたが取消されている。21世紀にもなれば、アンティパストが商標だと思う人も稀有な存在だと思うけれど、ネットがまだ普及途上の社会では、こんなこともあったのである。異議決定の文書にも、そのあたりが若干文学的に表現されている。
片仮名標準文字の「アンティパスト(平10-101457;異議2000-90097)も、審判官が違うが、同様の結果である。
Ⅱ.ARRABBIATA
1.辞書情報
arrabbiato[アッラッビアート](上記『イタリア料理用語辞典』 12ページ)
過形 怒った;ピリッと辛い.penne all’a~a トマトソースに唐辛子を加えた,非常に辛いペンネ料理.
注:過=過去分詞 形=形容詞
2.商標の状況

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 134ページ
「日本人の人気パスタのベスト5に入るであろうアラビアータ。」
「料理では赤唐辛子をきかせて辛みを強調したトマトソース和えのペンネをいいます。」
(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「アラビアータ」の検索結果。

4.コメント
商標(1)の登録時点では1件であったが、その後(2)の出願・登録頃から徐々に増加してきた。。(2)が(1)と類似とされずに登録されたことにより、Arrabbiata(アラビアータ)をメニュー名として使う自由が確立されたと言ってよいだろう。かつては「ペンネのアラビアータ」なんて、かなりマニアックに思えたのだが、昨今ではイタリア料理店だけでなく、街の食堂でも見かけるメニューになってきた。
Ⅲ.CARBONARA
1.辞書情報
carbonara[カルボナーラ](上記『イタリア料理用語辞典』 36ページ)
形女 炭焼き党員の.alla ~ 炭焼き風(いためた生のベーコンと卵を基本とするソースであえる).spaghetti alla ~(いためた生のベーコンと卵,ペコリーノチーズを加え、スパゲッティとあえる).
注:形=形容詞 女=女性名詞
2.商標の状況

<拒絶理由通知書(抜粋)>
該文字は、「ベーコン・パルメザンチーズ・生クリーム・卵などで作ったソース。」を意味する語として広く使用されているものです。
3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 132ページ
「卵ベースのカルボナーラは、日本ではミートソースやナポリタンと同じくらい、早い時期に浸透しました。」「ローマ東南部の山間地チョチョリア地方の生まれです。」
(1) 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カルボナーラ」の検索結果。

4.コメント
「カルボナーラが登録商標だった」というと驚く人も多いのだが、商標(1)の登録時点(1980年)ではほとんと新聞でも取上げられていないので、それほど不思議ではない。(2)は(1)の消滅(1990年。存続期間の更新がなかった)後の出願で、出願公告(一次審査通過)後、商標登録異議申立があり、拒絶査定。詳細は不明だが、「商標として機能しない」という理由で権利が成立しなかったはずだ。
吉川先生の「日本ではミートソースやナポリタンと同じくらい、早い時期に」というのは、少し言い過ぎではないかと思うが、80年代後半から、パスタソースの商品が発売され、90年代になってヨミダスにも再び出現し始め、人気メニューとなりそうな時期、93年の出願で95年の異議であり、多大な市場への貢献といえ、貿易振興会あたりに表彰されてもおかしくないと思うのである。もっとも、レストランなどでメニューとして「カルボナーラ」を提供することが、直ちに「加工食料品」等の商標権の侵害となるとはいえない。それでも、そのメニューのソースを供給する際、「カルボナーラ」と表記していいかというような問題は生ずるから、登録が市場の委縮につながりかねないのである。
(3)については、「商標として機能しない」という拒絶査定だが、この時期に当たり前すぎるほどの判断だといえる。
<注>
構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。
* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。
今回30話めで、累計105件となった。案件としては最終回であるが、きっとそのうち、またネタが出てくるものと思う。