2025-06-17

イタリア料理の商標あれこれ100選「第28話:飲食店・小売店(サービス)」

 こんにちは、鈴木三平です。
 第28話は飲食店や小売店等のサービス関係です。裁判になった「ENOTECA」をはじめ、「TRATTORIA」「RISTORANTE」「OSTERIA」「PIZZERIA」です。けっこう盛りだくさんです。

Ⅰ.ENOTECA
1.辞書情報
Enoteca[エノテーカ]《複-che》(町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷65ページ)
女 ワイン専門店,ワイン館(公営・私営のワイン展示・販売所).
注:女=女性名詞

2.商標の状況

<地裁判決(抜粋)>
 侵害を認めず請求棄却
 「ENOTECA」の部分が,「KIORA」の上部右側に,小さく,色彩も書体も区別されて表記されていること,及び上記(2)オで認定した被告標章の使用状況,すなわち被告店舗において被告標章のみならず,単に「KIORA」ないし「キオラ」としても使用されていることを併せ考えると,「ENOTECA」の語がイタリア料理レストランの営業において使用されるときには,「ENOTECA」の部分が需要者の注意を特に強く惹くことはなく,その部分が強力な自他役務の出所識別機能を果たしているものということはできない。
 被告標章においては,「ENOTECA」の部分が小さく表記され,前記のとおりこの部分が強力な出所識別機能を果たしているということはできないことからすると,被告標章全体の外観と本件商標とは,同一又は類似するということはできない。

<高裁判決(抜粋)>
 侵害を認めず控訴棄却
 「ENOTECA」(エノテカ)の語につき,我が国において,およそ普通名称であることを認識し得ないような事情があるのでなければ,「KIORA」,「キオラ」という固有の名称に「ENOTECA」,「エノテカ」という語を付加する形態により,飲食店の種類ないし性格を表すものとして「ENOTECA」(エノテカ)という語が普通に用いられる方法で使用されている限りは,被控訴人の自由な使用が認められてしかるべきである。この観点からも,被控訴人標章における「ENOTECA」又は「エノテカ」の部分は,自他役務の出所識別機能について重要な部分を占めるものではないというべきである。

<知財高裁判決(抜粋)>
(4)が(3)と類似しないという審決を取消し(類似すると判断)
 本件商標(注:(4))の登録査定当時には,「ENOTECA」又は「エノテカ」は,原告(注:(3)の商標権者)及び原告が行うワインの輸入販売,小売,卸売等の事業ないし営業を表示するものとして,日本国内において,取引者,需要者である一般消費者の間に,広く認識され,周知となっていたことが認められる。
 本件商標から「Enoteca」の文字部分を要部として抽出することはできないとの被告らの主張は,理由がない。
 本件商標の要部である「Enoteca」の文字部分と引用商標(注:(3)等)は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であることからすると,本件商標及び引用商標が本件商標の指定役務に使用された場合には,その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,本件商標と引用商標はそれぞれ全体として類似しているものと認められる。

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 54ページ
 「●ワイン販売店 
 昔はワイン販売が主だったが、最近は全般にその場で飲ませることに力を入れたワイン・バー的な店に移行しつつある。従来は①エノテーカ enoteca 、②ボッティエリーア bottiglieria を名乗ることが多かったが、いまでは③ヴィノテーカ vinoteca 、④ヴィネリーア vineria 、⑤ワイン・バー wine bar など、ワインがらみの新名称がどっと増えている。」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「エノテカ」。

 

(3)参考文献
 友利昴『エセ商標権事件簿』 合同会社パブリブ 2024 296ページ
「エノテカ事件」…商標(1)と(2)の事件について

4.コメント
 外食サービスについて、「ENOTECA」はいまや「商標として機能しない」から、商標(1)と(2)とは非類似。しかし、飲食料品の小売等のサービスについては、「ENOTECA」は商標として機能し、(3)と(4)とは類似とされたというところである。
 ・ (3)の商標権者が使用することによって、「ENOTECA」は、小売サービスに限ればある程度は周知商標(≒有名ブランド)になっている
 ・ (4)の「Enoteca Italiana」中の「Italiana」については、「イタリア産」「イタリア風」程度の意味あいで、「商標として機能しない」部分である。
 ・ よって、(4)から商標としての機能が強い「Enoteca」部分を分離して(3)と比較することも許される。
 ・ 分離比較されたら最後、「ENOTECA」と「Enoteca」とは類似するからアウト
ということである。
 なお、(4)については、高裁の判決はあるが、地裁のものはない。商標登録の有効性は、まずは特許庁内で争われ(無効審判)、その審決に不服がある者は、地裁ではなくいきなり高裁に訴えるという制度になっているためである。


Ⅱ.TRATTORIA
1.辞書情報
trattoria[トラットリーア](上記『イタリア料理用語辞典』 178ページ)
女 飲食店,軽食堂,レストラン.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 55ページ
 「トラットリーア trattoria――伝統的な地方料理と家庭的サービスが特徴で、庶民が日常的に利用する一般的レストラン」「1970年代頃までは飲食店の7割がトラットリーアだったが、」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「トラットリア」の検索結果。

 

4.コメント
 飲食サービスについてではなくて、商品としての菓子やパンについてであるが、「TRATTORIA」は「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶された。店内で飲食サービスを提供する食堂等では、持ち帰りも含めた商品としての菓子やパンが販売されることもあるから、「TRATTORIA」は「商品が販売される場所」として認識され、「商標としては機能しない」ということなのだろう。昨今では、店内飲食と持ち帰りとでは消費税率も異なるけれど、それはそれとして。


Ⅲ.RISTORANTE
1.辞書情報
Ristorante[リストランテ]男 レストラン(上記『イタリア料理用語辞典』 147ページ)
注:男=男性名詞

3.商標の状況

<不服2004-011412の審決から抜粋>
 本願商標は、その構成中上段の「RISTORANTE」の文字は、そこが「レストラン」である旨、すなわち役務の提供される場所を表すために普通に用いられる語として、また、「Fiorentina」の文字部分は、「フイレンツェ風の料理」、すなわちレストランで提供される飲食物の特性を表す語として認識されることから、これを構成する各文字の意味合いとが相まって、全体として、「フィレンツェ風の飲食物を提供するレストラン」程の意味を表すにすぎないものであり、本願指定役務との関係では、役務の質を表示する語であるといわざるを得ない。
 本願商標は、先に述べたとおり、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないありふれた図形と、その指定役務との関係において、その役務の質等を普通に用いられる方法で表示す文字とを結合してなるにすぎないものであって、全体として自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものと見るのが相当であるから、商標登録を受けることができないものといわざるを得ない。

4.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 55ページ
「リストランテ ristrante—–トラットリーアの高級版。フランスの高級な「レストラン」の概念を取り入れたもので、」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「リストランテ and イタリア」の検索結果

 

4.コメント
 上記商標については、外食サービスに「リストランテ\RISTORANTE」といったところで、店の業態を表しているにすぎず、「商標として機能しない」という判断だといえる。


Ⅳ.OSTERIA
1.辞書情報
Osteria[オステリーア](上記『イタリア料理用語辞典』 121ページ)
女 居酒屋,レストラン,宿屋.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

<不服2013-006556審決から抜粋)>
 商標(1)(2)と類似するという拒絶査定を取消
 「OSTERIA」の文字部分は,上記したとおり,「居酒屋,飲食店,宿屋,旅館」の意味を有するイタリア語であって,その指定商品及び指定役務との関係においては,商品の品質等又は役務の提供の態様を表示するものであるから,自他商品・役務の識別標識としての機能を有するものとはいえないものである。

3.その他情報
(1)上記『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 55ページ
 「近所の人が酒をひっかけに行くような居酒屋で、料理はサラミとチーズのようなつまみ程度のこともあれば、軽い食事ができるところもある。」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「オステリア」。

 

4.コメント
 商標(3)については、まずは(1)及び(2)と類似するとして拒絶査定がされた。そこで、出願人は不服審判を請求し、まずは上記の当初の指定役務の「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を削除して、(1)との商品等の抵触関係を解消した。
 そして、(2)との関係では、双方の「OSTERIA」という部分は、「飲食物の提供(≒外食サービス)」等については、「居酒屋」程度の意味合いで理解され、「商標として機能しない」ものであるから、そもそも類似の判断の対象外であると主張し、認められたものである。

 (1)の指定商品は「穀物の加工品」であり、(3)の当初の指定役務「飲食料品の小売…便益の提供」とは類似する(抵触関係にある)商品と役務と、一応推定されている。これらの商品・役務について「オステリア」及び類似するといえる「OSTERIA」が、「商標として機能する」といえる余地もあるということだ。いわば、商品としてのパスタ類の包装や、食品小売店の看板に「OSTERIA」と表示しても、「居酒屋向けの商品」や、「そういう商品の販売店」のような意味合いとして理解されるとまではいえず、逆に「オステリアじるしの食品や食品小売店」が成立するということであろう。そこで、出願人はこの役務について削除して抵触関係を解消している。
 そのいっぽうで、たとえば外食店に「オステリア」と表示することは、「うちは外食店だ」と言っているにすぎず、この表示は「商標として機能しない」ものだから、自由使用であり、類似や侵害の対象外であるといえる。という主張が認められ、(3)は(2)とは類似しないという結論、商標登録がされた。

 おそらく、(3)の出願人にとっては、外食サービスまわりの商標権は重要だが、食品小売サービスについての商標権は必須のものではなかったのであろう。


Ⅴ.PIZZERIA
1.辞書情報
 Pizzeria[ピッツェリーア](上記『イタリア料理用語辞典』 133ページ)
女 ピッツァ専門店.
注:女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)吉川敏明『ホントは知らないイタリア料理の常識・非常識』 柴田書店 2010 54,55ページ
「ピッツェリーア pizzeria――ピッツァ専門店。昔は夜から深夜のみの営業だったが、いまは昼間から開店。」

(2)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「ピッツエリア」
 1988年の「ピゼリア」2件を加えた。

 

4.コメント
 商標(2)は(1)より後日の出願であるが、これらには特殊な事情がある。実はサービス(役務)について商標登録制度が施行されたのは、世にサービス関係の商標が溢れている中、遅きに失した1992年4月1日のこと。出願の殺到を避けるために、この日から半年間、9月30日までの出願は同日出願扱い(早い者勝ちではない)としたのであった。改めて確認するに、(1)と(2)とは同日出願扱いであり、仮に「PIZZERIA」部分が商標として機能する、いわゆる「要部」であれば、審査官は類似と判断して、原則として協議やくじ引きで、権利を一本化しなければならなかったのであった。
 しかし、商標とサービスとの両方が類似・抵触する他人の商標が、既に複数使われていて、どちらかが著名というようなブランド力の差も特にない場合に限り、例外的に「重複登録」を認めることとなっていた。その場合には、商標公報(当時は商標登録より手前、審査をパスしたことを公示するものだった)に、「重複」という表示が必要だった。しかし、(1)にも(2)にも、公報に商標が使用されている旨の表示こそあれ、重複の表示はなかった。つまり、(1)と(2)とは類似する関係にはないと審査官は判断したのである。なぜそうなるかといえば、「PIZZERIA」部分は「商標として機能しない」から「要部」ではない、そもそも類似の判断対象外ということなのである。
 つまり、「PIZZERIA」は「レストラン」と同様、「ピザ屋さん」というような業態の表示であるから、「商標として機能しない」、自由使用の部分ということなのである。


<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。

* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 今回28話めで、累計99件となった。次回は、カラブリア等の地域名について取上げる予定。100件を超えるが、もう少し続行する。