2025-06-23

イタリア料理の商標あれこれ100選「第29話:地域名」

 こんにちは、鈴木三平です。
 第29話は地域名です。8話でボローニャ風のBolognese等をご紹介しましたが、今回は「CALABRIA」「CAMPANIA」「PUGLIA」です。「ひねりなし」の地域名ゆえ、登録してしまったらえらいことになりそうなものでもあります。

Ⅰ.CALABRIA
1.辞書情報
Calabria[カラーブリア](町田亘・吉田政国編『イタリア料理用語辞典』白水社 1992年初刷31ページ)
固 女 イタリア南部の州.
注:固=固有名詞 女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カラブリア」。

 

4.コメント
 出願された商標の内容を見るに、どうもカラブリア州で加工野菜事業を計画していた会社(某商社)があるが、実現しなかったのかもしれない。中村俊輔移籍時期の出願なので、審査官にもイタリアの州名であることが分かり、容易に拒絶できたのではないだろうか。


Ⅱ.CAMPANIA
1.辞書情報
Campania[カンパーニア](上記『イタリア料理用語辞典』 32ページ)
形女 イタリア南部の州.
注:形=形容詞 女=女性名詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1)新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「カンパーニャ」の検索結果。

 

4.コメント
 商標(1)の当初の指定商品は「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,乳製品,食用油脂,パスタソース,カレー・シチュー又はスープのもと」であったが、拒絶理由通知書を受けて、「イタリア風のパスタソース,イタリア風のカレー・シチュー又はスープのもと」と補正している。審査官はおそらく「カンパニアはイタリアの州名だから、それ以外の産地の商品に使用すれば品質誤認」としたものと思う。つまり、「イタリア産の商品」に限定すれば登録を認めるというところである。しかし、出願人は「イタリア風の商品」として、「必ずしもイタリア産でなくても、カンパニア料理は作れる」とでも主張して、認められたものと思う。「カンパニア風(産)」ではなく「イタリア風(産)」でもよいとしたのは、「カンパニア風(産)」について、範囲を厳密に定義しきれない場合がありうるが、それは他国の国内問題なので、日本の審査官は「イタリア風(産)」として、外国の内政問題には関与したもののようだ(というような話を聞いたことがある)。
 (2)は(1)と指定商品において抵触しないが、「商標として機能しない」という理由で登録を拒絶されている。州名で商品の産地等といえるようなものは、その地域の組合等の正当な出願であり、それが商品等の出所といえる場合や、州名というよりも特定の者の商標として広く認識されている場合でないと登録はされない。本件は民間企業の出願で、広く認識されているような事情もない。


Ⅲ.PUGLIA
1.辞書情報
Puglia [プッリア](上記『イタリア料理用語辞典』 138ページ)
固女 イタリア南東部の州.
pugliese [プッリエーセ](同ページ)
形 プーリア(Puglia)の.
注:固=固有名詞 女=女性名詞 形=形容詞

2.商標の状況

 

3.その他情報
(1) 新聞記事(ヨミダス・読売新聞)におけるキーワード「プーリア」の検索結果。

 

4.コメント
 拒絶理由について、データベースで確認できるのは、条文を記号で表示したもののみであり、産地・品質表示以外に「何かと類似」もあったが、上段が名詞形の仮名書き、下段が形容詞形ということで、本質的には類似があって使用禁止ということではなく、「商標として機能しない」、つまり自由使用と考えていいと思う。
 ちなみに、プーリア州はイタリア半島、かかとの位置にあり、バーリ,ブリンディシ,ターラント,レッチェ等の町がある。


<注>
 構成は、「1.辞書、2.商標の状況、3.その他、4.コメント」とした。商標・イタリア料理・調査、いずれのプロからも、「半人前」だとの集中砲火を浴びるかもしれないが、多少不十分な点があろうとも、面白いと思える発見があれば幸いである。商標についても、時代によっては情報が薄いところもあり、間違っているところ、私の知らないネタがあれば、「タレコミ」は大いに歓迎したい。
 なお、出願人、権利者は表示せず、紹介する商標中に、各社のブランドマークにあたる部分がある場合にも、”trademark”という表示とする。記した番号から調べればすぐ分かることであるが、筆者のいた会社も含めた当事者等が悪者にされる等、話題があらぬ方向に逸れることを少しでも避けたいからである。

* 「指定商品又は指定役務」は、問題となった部分のみで、全部を表示していないことがある。
* 「消滅」は、存続期間(分納)満了、拒絶査定・審決、取消の日等で、確定の日でないものもある。
* 番号は出願番号と、あるものは異議・審判番号のみとし、登録されたものも、登録日のみとして、その番号は省略した。

 今回29話めで、累計102件となった。次回は、最終回。最終回に前菜の「アンティパスト」を取上げる。あとは、今や知らぬものはいない「アラビアータ」と「カルボナーラ」。