(令和7年4月24日 知財高裁令和6年(行ケ)第10095号 「日本食育防災士」事件)
事案の概要
被告(被請求人・商標権者)が移転により取得した41類に係る本件商標「日本食育防災士」(標準文字・登録第6521920号)に対して、原告(請求人・特定非営利活動法人日本防災士機構)が、「防災士」からなる登録(41類登録第6521920号)及び使用の各商標を引用して、登録無効審判(2023-890093)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対して、審決の取消しを求めて、提訴した事案である。無効理由は、商標法4条1項6号、7号、10号、11号、15号又は19号の各該当性である。
判 旨
本件商標と本件各使用商標との類似性の程度 本件商標の外観のうち「防災士」の部分、称呼のうち「ボウサイシ」の部分は、それぞれ本件各使用商標と同一であり、観念においても「防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という要素において共通性が認められる。本件商標は、本件各使用商標との関係で、このような共通性を有する限度では類似性を有する一方、本件商標の指定役務の需要者であって、防災又は防災に関する資格について関心を有する者の間においては、本件各使用商標は周知である。そうすると、本件商標「日本食育防災士」は、本件各使用商標「防災士」と区別して識別することができるものではあっても、その需要者からみれば、「防災士」と全く無関係なものではなく、何らかの関連性を有する資格ではないかという連想を生じさせ得るものである。本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務との間の性質、 用途又は目的における関連性の程度は、高いというべきである。本件商標の指定役務の需要者と本件各使用商標に係る原告の業務の需要者は、いずれも防災又は防災に関する資格に関心を有する者が含まれるから、需要者の共通性が認められる。
混同のおそれについての判断 以上の事情は、本件登録査定日のほか、その約2か月前である本件商標の登録出願日においても(商標法4条3項)認められる。これらの事情を総合すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、その需要者の普通に払われる注意力を基準としても、その役務が原告の「防災士」と何らかの関係を有する防災関係の資格であって、原告又は原告が認めた関係機関が運営・管理するものの業務に係る役務であるとの混同(広義の混同)を生ずるおそれがあるということができる。
コメント
本件では、知財高裁は、無効理由中、商標法4条1項15号を取り上げて、〔レールデュタン事件〕判例(最高裁平成12年7月11日 平成10年(行ヒ)第85号・民集54巻 6号1848頁)に従い認定、判断し、原告の業務(民間資格「防災士」の認証、資格称号の付与、防災士の資質向上を図る事業等)との広義混同を認めたものである。本件商標と引用使用商標とは、先に11号について判断して商標としては類似しないが、判例上の類似性は肯定して、本件商標は、周知な引用使用商標を一部に含むため連想するとした。類似性とは、単なる商標の類似よりは広く深く、妥当な解釈である(拙著「商標法の解説と裁判例」改訂版191頁)。なお、本件判決では、商標法4条1項11号について先に判断して商標非類似として不該当との判断を示している。これは、次の15号で商標非類似とするための手順であろうか。珍しい判断手法と思われる。