2025-06-02

工藤莞司の注目裁判:マスコットキャラクターを引用し商標法4条1項6号該当とした審決が取り消された事例

(令和7年3月12日 知財高裁令和6年(行ケ)第10090号 「ぽんちゃん」事件)

事案の概要 
 原告(審判請求人・出願人)は、「ぽんちゃん」を標準文字で表してなる本願商標につき、指定商品を9類及び16類に属する願書に記載の商品として登録出願をしたが拒絶査定を受けて、本件拒絶査定を不服として拒絶査定不服審判(2023-2913)を請求した処、特許庁は、商標法4条1項6号該当として不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて、提訴した事案である。引用マスコットキャラクターは右掲図参照。

判 旨 
 前記1の認定事実によると、館林市内においては知名度を獲得しているものと推認される。しかし、これらの使用実績は、基本的に館林市民や館林市を訪問する観光客等に向けられたものにとどまっている。そこで、館林市外に向けて引用キャラクターが使用された実績をみると、埼玉県や東京都で開催された催事への参加は、証拠上、4件にとどまり(略)、日本シンガポール国交50周年記念イベント(略)や東武鉄道「りょうもう7市スタンプラリー」(略)への参加は、いずれも、他の多数のマスコットキャラクター等と共に参加しているものである。新聞記事への掲載実績をみると、いずれも、群馬県の地方紙である上毛新聞の記事か、全国紙であっても記事の文面からしていわゆる地方版に掲載された記事であると認められる。さらに、日本全国に向けた発信等をみると、いずれも平成26年から平成27年にかけて限定的に露出されたものにとどまる。商標法4条1項6号にいう「著名なもの」というためには、同号に掲げる団体や事業の地域性に照らし、必ずしも日本全国にわたって広く認識されている必要はないが、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要するものと解するのが相当である。そうすると、引用標章は、館林市及び館林市観光協会による観光振興事業の地域性を考慮しても、相応の規模の地理的範囲において広く認識されているということはできないから、商標法4条1項6号にいう「著名なもの」に当たらない。

コメント 
 本件事案においては、館林市及び館林市観光協会によって、観光振興事業のため採択、使用のマスコットキャラクターについて、商標法4条1項6号に係る著名の意義が争われ、知財高裁は、これを肯定した審決の認定、判断とは異なり、著名性を否定して、審決を取り消したものである。館林市での知名度のみでは、6号該当とは言えないとした知財高裁の認定、判断は妥当であろうが、6号の趣旨の一つとして出所の混同を挙げているが疑問である。指定商品・役務に関係なくすべての出願に適用される公益規定6号の趣旨や規定振りと離れたものである(令和7年2月4日 知財高裁令和6年(行ケ)第10060号 本注目裁判例「JPCスポーツ教室」事件コメント参照)。なお、判決には商標法4条1項7号該当を示唆するような文言があるがどうだろう。