2025-06-16

工藤莞司の注目裁判:出願商標「健康経営EXPO」は識別力がないとされた事例

(令和7年4月23日 知財高裁令和6年(行ケ)第10098号「健康経営EXPO」事件)

事案の概要
 原告(審判請求人・出願人)は、「健康経営EXPO」を標準文字で表してなる本願商標について、35類及び41類役務を指定役務として登録出願をしたが、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2023-16200)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。指定役務には、35類「商品見本市・商品博覧会・商品展示会の企画及び運営、オンラインによる商品見本市・商品博覧会・ 商品展示会の企画及び運営」、41類「展示会・展覧会・セミナー・会議・ビジネス会議及び協議会の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供及び助言、オンラインによる展示会・展覧会・セミナー・会議・ビジネス会議及び協議会の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供及び助言」が含まれている。

判 旨
 事業者が企画、出展、参加等する展示会やセミナー(オンラインによるものを含む。)の分野等においては、「健康経営」の文字は、「企業で働く人たちの健康の維持、増進と組織の健全性を高める経営の手法」という意味を有する熟語として、これを主題とする展示会やセミナー等が、地方公共団体等や、私企業等の事業者によって広く開催されている実情や、「EXPO」の文字が、その語頭に主題となる事項を配して、当該主題に関する展示会やセミナー等のイベントの名称とすることが広く行われている実情がある。このような本願商標の構成文字の語義及び本願の指定役務に関する取引の実情を踏まえると、本願商標「健康経営EXPO」は、「健康経営(企業で働く人たち の健康の維持、増進と組織の健全性を高める経営の手法)を主題とする展示会やセミナー等のイベント」といった意味合いを容易に認識、理解させるものといえる。そうすると、本願商標は、その指定役務との関係で、展示会やセミナーといった役務の質(内容)を表示記述するものであり、本願商標が指定役務に使用された場合に、その取引者、需要者によって、将来を含め、役務の質(内容)を表示したものと一般に認識されるものであるといえる。そして、本願商標は、「健康経営EXPO」の文字を標準文字で書してなるものであり、特段識別力を獲得するための他の要素が加えられていない。以上を総合すると、本願商標は、その指定役務、とりわけ前文に摘示した指定役務につき、役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認められるから、法3条1項3号に該当するというべきである。

コメント
 本件事案については、知財高裁も、3条1項3号該当性を認定、判断し、審決を維持したものである。指定役務関連の取引の実情から、本願商標は、「健康経営(企業で働く人たち の健康の維持、増進と組織の健全性を高める経営の手法)を主題とする展示会やセミナー等のイベント」の意味合いを容易に認識させると認定、判断した。審決時において個別具体的に判断され、過去の審判決例は参考ともされない。規定上の「普通に用いられる方法で表示する標章」とは、当該出願商標の表示、すなわち文字の態様のことで、現に出願商標が取引界で使用されていることを意味するものではない。