(令和7年6月16日 知財高裁令和6年(行ケ)第10107号 「キリンフーズ」審決取消事件)

事案の概要
原告(審判請求人)は、被告(審判被請求人・商標権者)が有する本件商標(右図参照・登録第6687612号)、指定商品 30類 「ぎょうざ、しゅうまい、中華まんじゅう、ハンバーガー、ホットドッグ、穀物の加工品」について、登録無効審判(2023-890059)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し審決の取消しを求めて提訴した事案である。無効理由は商標法4条1項11号、15号違反で、引用商標は「KIRIN」(登録第4180368号)、指定商品30類他8件である。
判 旨
本件指定商品、各引用商標の指定商品・役務は、いずれもその指定商品・役務の内容から、需要者は一般の消費者と認められるところ、一般の消費者は、必ずしも商標の構成を細部にわたり記憶して取引に当たるとはいえないから、そのような需要者が通常有する注意力の程度を踏まえて、本件商標と各引用商標の外観、称呼及び観念の要素を総合勘案することとなる。本件商標と各引用商標は、外観において相違するものの、想像上の動物である麒麟の観念及び「キリン」の称呼を共通にするものであり、本件商標からは「キリンフーズ」との称呼も生じるものの、商品の自他識別標識として分離抽出することができる要部から生じる「キリン」の称呼及び想像上の動物である麒麟の観念を共通とするものであり、外観の相違は、称呼、観念の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものということはできないといえる。これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標と各引用商標は、全体として、商品・役務の出所について誤認混同を生じるおそれがある類似の商標であると認められる。
本件指定商品は、各引用商標の指定商品若しくは指定役務と同一ないし類似する。以上のとおり、本件商標は、他人の登録商標である各引用商標と類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するものであるから、商標法4条1項11号に該当する。
コメント
知財高裁は、本件商標の文字部分について、分離、要部観察をし引用各商標と類似すると判断をして4条1項11号該当を認めて、審決を取り消したものである。本件指定商品、各引用商標の指定商品・役務は、需要者は一般の消費者であると認められることを踏まえたものである。この点、審決は「キリンフーズ」の文字部分は同じ書体、同じ大きさ、同じ色彩で一体的にまとまりよく表され、本件商標の文字部分は一体で把握される造語というのが相当としたが、構成重視、優先は残念である。因みに、原告はキリンビール(株)を傘下に置く親会社である。