(令和7年7月9日 東京地裁令和6年(ワ)第70635号 「十字図形」侵害差止請求事件)

事案の概要
本件は、原告が被告に対し、被告が被告各標章(右掲図)を付した被告各商品を販売することにより、原告の保有する商標権(国際登録第1002196号下図参照、18類、25類他)が侵害されていると主張して、商標法36条1項及び2項に基づく使用の差止め等を求めた事案である。

判 旨
原告商標と被告標章1の外観は、①外側及び内側の四角形の四辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか、直線であるかの点、②外側及び内側の四角形の四隅が丸みを帯びているか、角であるかの点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章1より狭い点、④中央部分に配置された図形が異なる点において相違する。上記④の相違点は、取引者及び需要者が着目する中央部分に位置する図形に関わるもので、識別力が高い部分に係る相違点である。また、上記 ①及び②の相違点についても、外縁部分から受ける印象が丸みを帯びたソフトなものであるのか、シャープなものであるのかにおいて明らかに異なるから、上記④の相違点とあいまって、上記の共通点から全体として受ける類似との印象を凌駕することは明らかである。そうすると、原告商標と被告標章1の外観は、取引者及び需要者に異なる印象を与えるといえ、類似するとはいえない。また、原告商標と被告標章1は、観念及び称呼の点においても異なる。
原告商標と被告標章2は、いずれも略正方形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成であるため、取引者及び需要者が上記相違点を看取することは容易であるといえる。そして、上記①~⑤の相違点(引用者注判決第3 3(2)ア参照)によって、原告商標が平板でシンプルな印象を与えるのに対し、被告標章2は、より重厚かつ複雑な印象を与えるものである。また、上記⑥及び⑦の相違点(引用者注判決第3 3(2)ア参照)について、被告標章2の色彩は、モノトーンではないという点で、全体として原告商標の色彩と異なる印象を与えるものである。これらの相違点は、上記の共通点から受ける類似との印象を凌駕し、外観は、顕著な差異があるといえる。したがって、原告商標と被告標章2の外観は、類似するとはいえない。原告商標と被告標章2からは、「十字」又は「クロス」の観念及び「ジュウジ」又は「クロス」の称呼が生じ得るから、両者の称呼及び観念は同一である。そして、原告商標は図形のみからなる商標であるが、インターネット上のショッピングサイトにおいて、取引者及び需要者は、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し購入するといえ、図形から生じる「十字(ジュウジ)」 及び「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは 想定し難い。そうすると、原告商標と被告標章2の観念及び称呼が同一であることによって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等が大きいとはいえず、前記の外観の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕するものといえる。以上によれば、原告商標と被告標章2が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれが あるとはいえない。よって、被告標章2が原告商標と類似するとはいえない。
コメント
侵害訴訟において、図形商標の類否が争われ裁判所は詳細に認定、判断し非類似と判断したものである。原告商標と被告標章2とは、称呼観念同一と判断しながらも、インターネット上のサイトにおいては、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し購入するといえ、図形から生じる観念及び称呼により商品の検索等を行うことは 想定し難いとして、外観上の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕するとした珍しい判断例である。