2025-08-25

工藤莞司の注目裁判:引用商標「珠屋珈琲」について要部観察が認められて、審決が支持された事例

(令和7年7月17日 知財高裁令和7年(行ケ)第10010号 「珠屋珈琲」審決取消請求事件)

事案の概要
 原告(審判請求人・出願人)は、本願商標(右図参照)について登録出願をしたが拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2024-13830)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて 提訴した事案である。審決の理由は、本願商標は商標法4条1項11号該当で、引用商標「珠屋珈琲」(標準文字)登録第5984053号)と類似し、本願の指定役務43類「飲食物の提供」は、引用商標の指定役務中、43類 「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」と同一又は類似する役務であるとした。

判 旨
 本願商標は、「珠屋」の漢字を大きく横書きし、その左側に、「珠」の漢字を白抜きで表した円の周囲に図案化された「TAMAYA」の欧文字を配置し、その外側を円で囲んだ図形を表したものでいずれも茶系統の色で表されている。そして、「珠屋」の文字部分と図形部分とは分離して配置されている上、「珠屋」の漢字が大きくはっきりと表されているのに対し、図形部分は全体が「珠屋」の文字部分の漢字一文字よりも小さく、その構成中の文字はさらに小さく表されている。そうすると、本願商標の「珠屋」の文字部分は、本願商標に接する取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められ、本願商標の要部に当たるというべきである。称呼については、本願商標の要部「珠屋」の文字部分からは「タマヤ」の称呼が生じ、図形部分からも「タマヤ」の称呼が生じ得る。観念については、特定の観念が生じるとはいえない。
引用商標の構成中、「珈琲」の文字部分は、その役務において主として提供される飲食物が「コーヒー」であること、すなわち、役務の内容を表示したと認識させるにとどまるものといえ、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる。そうすると、「珠屋」の文字部分は、出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるとまではいえないとしても、一定以上の自他役務識別力を有する部分といえる。以上のとおり、本願商標と引用商標は、それぞれの要部において、外観において相当程度近似しており、その要部の称呼は同一であり、特定の観念を生じないものである。したがって、本願商標及び引用商標を同一又は類似の役務に使用した場合には、通常、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるということができるから、本願商標と引用商標は、全体として、互いに類似するものと認めるのが相当である。

コメント
 本件事案においては、商標法4条1項11号該当性判断の中で、要部観察の是非が争われて、知財高裁は、引用商標についても要部観察をして、本願、引用両商標の類似を認めて、審決を支持したものである。引用商標「珠屋珈琲」の指定役務の43類 は「コーヒーを主とする飲食物の提供、飲食物の提供」である。出願前の事前調査において、検討可能な範囲と思われる。