(令和7年6月30日 知財高裁令和6年(行ケ)第10096号 「キッズ防災士」審決取消請求事件)
事案の概要
原告(請求人)は、被告(被請求人・商標権者)が有する本件商標「キッズ防災士」(標準文字 登録第6669227号)、指定役務41類(略)について、登録無効審判(2023-890094)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。請求理由は、商標法4条1項6、7、10、11、15、19号該当で、引用商標(登録第4833713号)は「防災士」、41類(略)で、引用使用商標は「防災士」である。
判 旨
(周知性)本件商標の出願時及び査定時において、消防や警察、自治体職員などを中心とする防災関係者間においては、ある程度の周知性を獲得していたと認められる。しかし一般の消費者の間においては、引用商標及び引用使用商標に係る「防災士」は、広く親しまれた著名な民間資格の一つとはいえないし、広く知られているとも認められず、周知性はない。
(4条1項11号)本件商標と引用商標は、外観、称呼においていずれも異なる上に、観念においても比較することができないから、一般の消費者の認識において、時と所を異にして離隔的に観察した場合、本件商標と引用商標とは互いに紛れるおそれのある類似の商標とは認められない。本件商標は、引用商標と類似する商標ではなく、4条1項11号に該当しない。本件商標の構成中、「防災士」が要部として抽出されるとは認められないというべきである。
(4条1項10号)一般の消費者の認識において、本件商標と引用商標とは同一ないし類似の商標とは認められないから、本件商標が4条1項10号に該当すると認めることはできない。
(4条1項15号)本件商標は引用商標に類似しているとは認められず、引用商標及び引用使用商標はいずれも独創性のあるものでも周知著名性を獲得しているものでもないから、当該指定役務が原告の業務に係る役務であると誤信するおそれがあるとは認められず、広義の混同を生ずるおそれがあるとも認められない。
(4条1項6号)引用標章は著名なものに限られているのであって、日本全国にわたって広く認識される必要はないと解するとしても、なお相応の規模の地理的範囲において広く認識されていることを要すると解されるところ、引用商標、引用使用商標がこれに該当しない。
(商標法4条1項7号)本件商標は、本件商標の文字に引用商標の文字と共通する部分があることをもって、被告による本件商標の登録出願が、公正な商標秩序に反し著しく社会的相当性を欠くと直ちに解されることもない。本件商標が4条1項7号に該当するとは認められない。
(4条1項19号)本件商標の指定役務との関係において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であると認めることはできない。被告に不正の目的があったと認めるに足りる証拠もない。本件商標が4条1項19号に該当するとは認められない。
コメント
本件事案では、原告は6つの無効理由について争い、いずれも否定されて、審決が支持されたものである。もう少し的を絞って争うべきであろう。判決は、一般消費者の認識を基準として判断しているが、引用商標は防災関係者間では周知性があるとの認定もあり、引用使用商標の取引者はどちらなのであろうか。結論は妥当としても、整合性を欠く部分もあると思われる。