2025-09-08

工藤莞司の注目裁判:商品形態が非類似として不競法2条1項1号には該当しないとして原審が取り消された事例

(令和7年7月16日 知財高裁令和7年(ネ)第10012号 原審令和6年11月22日 東京地裁令和5年(ワ)第70036号 「Yコネクターの形態」不正競争事件)

事案の概要
 本件は、原告(被控訴人)が、被告(控訴人)に対し、原告商品の主要な構成品Yコネクターの形態(下傾図左参照)が原告の商品等表示として需要者の間に広く知られており、被告が原告Yコネクターの形態と類似するYコネクター(下傾図右参照)を主要な構成要素とする被告商品を製造販売する行為は、原告の商品と混同を生じさせる行為であって、不正競争防止法(「不競法」と略)2条1項1号の不正競争に当たると主張して、同法3条1項に基づき被告商品の製造及び販売の差止めを求めた処一部認容され、被告が控訴した事案である。

 

控訴審判旨
 原告Yコネクターの形態と被告Yコネクターの形態の類否 被告Yコネクターでは、オープナーはシボ加工された素材がオレンジ色に着色され、スクリューの下部及びローテータの上部にオープナーと同色(オレンジ色)に着色されたCリングを有するのに対し、原告Yコネクターではこれらの特徴を有しないとの相違点は、需要者医師を中心とする医療従事者に与える印象の差異が小さいとはいえない。また、被告Yコネクターに設けられた円形状の支持部は、商品全体の中央に位置し、その直径もメインブランチの長さの半分程度に達しており、全体として被告Yコネクターの形態に安定した印象を持たせるものであって、これは、接続部分に水かき様のリブを設けるにとどめ、ローテータやスクリューの細さやメインブランチの長さもあいまった外観により原告Yコネクターの形態が持つ全体としてスリムな印象とは異なるというべきである。加えて、オープナーの形状、スクリューやローテータに設けられた凹凸の数や形状、アタッチメント取付用のフランジ等、他の外観上の差異も、Yコネクターの全体的な構成自体は需要者に対する出所識別標識としての機能を果たすものと認められないことからすると、それぞれ、需要者に異なる印象を与え得るというべきである。加えて、被告Yコネクターの円形状の支持部に成形された「TMP」「Smart」の文字部分は、必ずしも強く目をひくとまではいえないが、同部分からは「ティーエムピー」「スマート」の称呼が生じ、「聡明な」といった観念が生じるのに対し、原告Yコネクターの形態からは何らの称呼及び観念を生じない。そうすると、全長が約88mmでほぼ一致している点や、全長に対するサムホイール、メインブランチ及びローテータの各寸法比がおおむね一致しているとしても、原告Yコネクターの形態と被告Yコネクターの形態とは、外観、称呼、観念上の差異があって、二弁式Yコネクターの需要者医師を中心とする医療従事者は、これらの差異に基づいて異なる印象を受けるといえるから、両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるとまで認めることはできない。したがって、被告Yコネクターの形態は、原告Yコネクターの形態と類似するものとは認められない。

コメント
 商品形態について不競法2条1項1号該当性が争われた事例で、原審は原告の請求を認めたが、控訴審はこれを覆した。2条1項1号による保護の前提として、裁判所は、先例に倣い、特定の商品の形態が、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、その形態が長期間継続的・独占的に使用され、又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果、特定の営業主体の商品の出所を示す識別機能を獲得した場合には、このような商品の形態は、2条1項1号によって保護される商品等表示に該当すると解されるとした。原審は、周知性の獲得、両形態の類似性、そして広義の混同を認めたが、控訴審では、前掲判旨のように原告と被告の商品形態は非類似として、原審を取り消した。医療機器の技術的な形態で、控訴審では、商品等表示の識別標識としての観点から外観、称呼、観念上を認定し類否判断をしたことが窺われる。最近2条1項1号事案は稀である。