(令和7年7月17日 東京地裁令和6年(ワ)第70003号 「2ch」侵害請求事件)
事案の概要
原告は、本件商標「2ch(標準文字)」(登録第5843569号38類 電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供、インターネット利用のチャットルーム形式による電子掲示板通信及びこれに関する情報の提供他)の商標権者である。被告ロキテクノロジーインコーポレイテッド(以下「被告ロキ社」という。)は、インターネット上の電子掲示板である「5ちゃんねる」を運営しているところ、DNS(ドメインネームシステム)の転送機能の設定画面において「5ちゃんねる」に転送するためのドメイン名として 「2ch.net」との文字列(「被告標章」)を入力した。本件は、原告が、本件入力行為が商標権を侵害すると主張して、被告らに対し、民法709条等に基づき、連帯して、損害賠償の支払を求めた事案である。
判 旨(被告ロキ社による使用行為の有無)
原告は、DNSの転送機能の設定画面に転送元のドメイン名として「2ch.net」という文字列(被告標章)を入力した行為が、商標法2条3項8号にいう役務に関する広告を内容とする情報に標章を付する行為に該当する旨主張する。しかしながら、被告ロキ社が被告標章を入力した情報は、DNS上の設定画面にすぎず、しかも、裁判所の求釈明にかかわらず、原告は、その画面の具体的内容を立証するものではない。そして、弁論の全趣旨によれば、上記設定画面は、管理者のみがアクセスできるものであって、インターネット上のユーザーの目に触れるものではなく、明らかに広告を内容とする情報であるとはいえない。したがって、被告ロキ社が被告標章を入力した上記設定画面は、役務に関する広告を内容とする情報であるとはいえず、これを前提とする原告の主張は、その前提を欠く。仮に、原告は、本件転送設定を前提として、DNSの転送機能の設定画面に被告標章を入力した行為(本件入力行為)が、被告標章をドメイン名として使用するものであり、商標法2条3項8号にいう「使用」に該当する趣旨をいうものとも一応善解し得る。しかしながら、同号にいう「使用」とは、標章をドメイン名として使用する行為自体をいうものではなく、広告等を内容とする情報に標章を付する行為をいうものであるから、仮に、本件入力行為をもって被告標章をドメイン名として使用したという原告の見解に立ったとしても、当該行為は、広告等を内容とする情報に標章を付する行為とはいえず、原告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の主張は、いずれも採用することができず、被告ロキ社が商標法2条3項8号所定の使用に該当する行為をしたとはいえない。
コメント
本件事案においては、DNS(ドメインネームシステム)に係る入力行為が商標の使用、すなわち広告行為に当たるか否か争われて、否定されたものである。商標法2条3項8号は、広告等に標章を付して電磁的方法により提供する行為と規定する。当該商品又は役務について取引者、需要者が接する局面である。DNS(ドメインネームシステム)に係る入力行為は、そのための内部の管理作業であろう。この点裁判所は原告に対し釈明を求めたが その画面の具体的内容の立証はないとされた。