(令和7年7月24日 知財高裁令和7年(行ケ)第10005号 指定商品・役務類否事件)
事案の概要
原告は、本願商標について登録出願をしたが拒絶査定を受けて、拒絶査定不服審判(2024-4133)を請求した処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。争点は、商標法4条1項11号該当性(指定商品又は指定役務の類否)で、本願指定商品「分析機械器具用ソフトウェア及びデータ分析用ソフトウェア」と引用指定商品「電子応用機械器具中の水道管理用プログラム」、同指定役務「これらの商品の開発を行う役務」との類否である。
判 旨
本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)について (ア) まず、本願指定商品のうち、本願指定商品(分析機械機器用ソフトウェア)は、分析機械機器の組込みソフトウェアや、分析機械機器メーカーが自社製品専用に開発、提供するものに限られず、他社製品にも使用可能なソフトウェア単体で販売されるものも含む。また、本願指定商品のうち、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)は、分析機械機器から得られたデータを含む様々なデータの分析及び可視化のための機能を有し、汎用のコンピュータによって作動するソフトウェアである。他方、引用指定商品(水道管理用プログラム)は、上下水道マッピングシステムに限らず、水質検査と密接に関連する水質の分析検査や、そのデータの収集、管理の機能を有するソフトウェア(「水質分析用ソフトウェア」)を含み得る。したがって、結局、本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)には同一の商品(水質分析用ソフトウェア)が含まれ、当然のことながら、その場合の需要者(水道事業者等)も共通にすることになる。(イ) この点を措くとしても、本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、いずれも汎用コンピュータ(電子計算機)で用いるソフトウェアであるという点において一致するところ、これらのソフトウェアは、対象となる業種や用途の専門性を問わずソフトウェアの事業者によって製造、販売、開発されているものであり、両指定商品についても、同一営業主により製造、販売、開発され、あるいは親子会社又は経営上密接な関係にあり、同一の商標を使用する同一の企業グループに属する会社により製造、販売、開発されている実情がある。具体的な用途や需要者についてみても、両指定商品は、いずれも水質検査のデータを取り扱うという用途を含み、水道事業者、水質検査業者及び自家水道や給水設備の管理業者という需要者を共通にする。したがって、両指定商品に同一又は類似の商標を使用するときは、一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあることは明らかである。 本願指定商品(データ分析用ソフトウェア)と引用指定商品(電子応用機械器具等)は、商品自体にはソフトウェアとハードウェアという相違点があるが、その需要者は共通しており、取引の実情に照らし、これらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるというべきである。 本願指定商品と引用指定商品(水道管理用プログラム)は、同一の商品(水質分析用ソフトウェア)を含むものであるから、そもそも本願42類役務にも引用指定役務と同一の役務 (水質分析用ソフトウェアの開発)が含まれている上、取引の実情に照らすと、本願42類役務と引用指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるというべきである。
コメント
本件事案においては、本願、引用に係る指定商品・役務の類否が争われて、知財高裁においても、類似と認められて審決が維持された事例である。本願指定商品「分析機械器具用ソフトウェア及びデータ分析用ソフトウェア」と引用指定商品「水道管理用プログラム」、同指定役務「これらの商品の開発を行う役務」とは、需要者等を共通にして、類似の商品、役務とされた。判例 (「橘正宗事件」昭和36年6月27日 最高裁昭和33年(オ)第1104号 民集15巻6号1731頁)を踏まえことが窺える。因みに、本願商標と引用商標の類否については、原告は審決の類似商標の判断を、これを争わなかった。