2025-10-06

工藤莞司の注目裁判:被告の使用には黙示の許諾があったとして原告の侵害請求が棄却された事例

(令和7年8月21日 東京地裁令和6年(ワ)第70579号 「ジェットバブル」侵害事件)

事案の概要
 原告は、超音波洗浄や化学洗浄など先端技術を用いた工業用設備又は部品の洗浄、メンテナンス等の高精度な洗浄サービスを業として、本件商標「ジェットバブル」の本件商標権を保有している。他方、被告は、工業用設備又は部品の洗浄、メンテナンス等の洗浄サービスを業としているところ、「SUPER JET BUBBLE」の標章が付されたトラックを使用して高圧洗浄を行ったほか、被告のウェブページ上に「ジェットバブル」の標章を使用した。原告が、被告に対し、被告による上記の各行為が本件商標権を侵害すると主張して、商標法38条3項に基づく損害賠償金及び民法703条に基づく利得金並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

判 旨
 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成16年11月頃以降、日本ジェッターズを経営していたAiの了解及び協力の下で、被告標章1「SUPER JET BUBBLE」が付された本件トラック1及び2の使用を開始するとともに、被告のウェブページへの本件トラック1及び2の写真の掲載及び被告標章2「ジェットバブル」の記載を開始して、本件トラック1及び2を用いた洗浄工事を実施していたこと、そのような協力関係の下で、・・・被告はAiが経営する環境アコロから依頼を受け令和元年7月2日及び令和3年3月9日に本件トラック1又は2を用いて作業を行ったこと、被告代表者が令和4年5月頃にAiに対し環境アコロに関する代金の支払いを求めたところ、原告代表者から初めて本件商標権の侵害を主張されるようになったこと、被告が同年11月に環境アコロに対し書面で代金の支払いを求めたところ、原告及び環境アコロから被告に対し同年12月15日付で本件警告書が送付され、被告は、同年12月末までには被告標章1及び2の使用を止めたことの事実が認められる。上記認定事実によれば、日本ジェッターズ及び同社からその後に本件商標権を譲り受けた原告は、被告が被告標章1及び2の使用を始めるようになった平成16年11月頃から、令和4年12月15日の本件警告書の送付までの約18年もの間、被告が被告標章1及び2を使用していることを認識しながらその中止を求めなかったことが認められる。これらの事情の下においては、原告は、被告に対し、少なくとも令和4年12月15日に本件警告書を送付するまでは、被告標章1及び2の使用を黙示に許諾していたものと認めるのが相当である。そして、被告は、本件警告書を受領した後、間もなく被告商標1及び2の使用を自ら止めているのであるから、本件商標権侵害があったものと認めることはできない。

コメント
 本件は、被告の本件商標の使用には、原告から黙示の使用許諾があったと認定されて、原告の損害賠償等の請求が棄却された事例である。被告は、原告側の了解及び協力の下使用を開始し18年間も使用を継続した事例である。通常使用権については、正式な許諾契約がなくとも、一定の関係のある者の間では、口頭又は黙示の使用の了解による黙示的にも成立する。本件は黙示の使用の了解の例である。原告からの警告後、被告が直ちに使用を中止したのが良かったのかもしれない。