2025-11-17

工藤莞司の注目裁判:出願商標の分離観察が否定されて引用商標と非類似とされた事例

(令和7年9月25日 知財高裁令和7年(行ケ)第10033号「allstar」事件)

事案の概要
 原告(審判請求人・出願人)に係る本願商標(右掲図参照)は、下寄りの一部を白抜きの細い横線で装飾した赤色の「allstar」の欧文字を横書きした本願文字部分と、その左側に配置された横線と円弧図形とを組み合わせたような赤色の本願図形部分の構成からなり、指定商品は補正され最終的に8類、25類、27類及び28類に属する商品である。本願については拒絶査定がなされ、原告は、拒絶査定不服審判(2023-650052)の請求をした処、特許庁は不成立審決をしたため、知財高裁に対し、審決の取消しを求めて提訴した事案である。争点は、商標法4条1項11号該当性で、商標の類否であり、引用商標は「All Star(筆記体)/オール スター」で、28類「運動用具(体育用器械器具・体操 用器械器具・スターターピストル・スケート靴を除く。)」を指定商品とする。

判 旨
 本願商標の分離観察の可否について 本願図形部分は、本願文字部分の左端に一文字分の横幅をとって配置され、本願文字部分の欧文字を左から読む場合には、最初に目につく部分であって、外形的にみて本願商標の特徴的な部分を構成している。また、本願図形部分は、本願文字部分の白抜き部分と一体となって、フェンシングの剣を模すデザインの一部であり、本願図形部分は、フェンシングの剣の鍔と柄を模したと認められる。そうすると、本願図形部分は、本願文字部分と一体となり、全体として一定の観念を想起させることが予定されている。本願図形部分は、本願商標の特徴的な部分を構成しているから、本願文字部分だけが取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として特に強く支配的な印象を与えるものとまでいうことはできない。また、本願図形部分はフェンシングの剣の鍔と柄を模したものであるから、本願図形部分からおよそ出所識別標識としての観念が生じないと認めることもできない。一般に商標は、・・・みだりに分離観察すべきではないことを踏まえると、本願商標における本願図形部分と本願文字部分とを分離することは、取引上不自然であって、これを分離観察することは相当ではないというべきである。
 以上によれば、本願商標は、引用商標と同一又は類似の称呼(オールスタ ー)を生ずることはあるが、フェンシング関係者の間では、引用商標と異なる称呼である「アルスター」が相当程度定着している。また、両者の外観は大きく異なり、かつ、想起される観念についても、そのすべてを共通にする ものではない。取引の実情としても、広く専ら称呼のみによって指定商品の取引が行われているものと認めることはできず、出所の識別については、指定商品に付された商標の外観が重要な役割を果たしていることが推認される。したがって、これを全体的に考察すると、本願商標は、引用商標との関係で、商品の出所に誤認混同をきたすおそれはないというべきであるから、引用商標に類似する商標ということはできない。

コメント
 出願商標、引用商標との類否判断において、出願商標の分離観察の是非が争われたが、裁判所は、これを否定して、審決を取り消した事例である。出願商標は図形部分と文字部分の一体性から分離観察を否定したもので、外観上の非類似が称呼上の類似を凌駕すると判断したものではない。出願商標上のフェンシングの剣の鍔と柄を模したものを強調しているが、文字部分の称呼、観念上から類似と判断した審決も妥当性があるのではなかろうか。ともあれ結合商標の類否判断は簡単ではない。